コラム

新型肺炎、中国経済へのダメージをビッグデータで読み解く

2020年02月27日(木)16時25分

但し、前にも述べたように、感染の封じ込めが達成されたあとは必ず経済がV字回復する。2020年通年で見た場合にはプラス成長を回復できるはずである。

私は中国の国家統計局が2020年第1四半期のGDP成長率を正直に報告してくれることを願っているが、次善の策としてはGDP成長率を発表しないという手もある。第1四半期の経済がかなり悪かったことは誰しも実感できることなので、わざわざマイナス成長の統計をみてさらに落ち込む必要もないかもしれない。もし事態が終息したあとに経済が自動回復する見込みが高いのであれば、2020年上半期のGDP成長率だけを発表するというのも一つの知恵である。

GDP成長率を計算する目的が、経済の「体温」を計測して、景気を刺激する政策をとるか、過熱を緩和する政策をとるかを判断する参考にすることだとすれば、2020年第1四半期は異常事態なので、その数字でにわかに景気判断をして対策を打つのは拙速である。4月以降の経済の自動回復力を見極めたうえで、適切な対策を考えるべきだとすると、第1四半期のGDP成長率のデータはそもそも必要ないのかもしれない。

感染爆発を招いた言論の圧殺

最悪なのは、4~5%台の粉飾したGDP成長率を発表することである。2015年以降の国家統計局が発表するGDP成長率にかなり問題があることはすでにこのコラムで論じた。最近では、経済の状況が大きく変化しても、公表数字はわずかしか動かなくなった。普通の国では、GDP成長率が6.5%から6.3%へ0.2%ポイント下がることはほとんど問題にならないぐらいのわずかな変化であるが、最近の中国ではこの変化でさえ「景気が悪い」と表現されるぐらい、GDP成長率が硬直的である。これまでの国家統計局の行動パターンからすると、第1四半期のGDP成長率として4~5%ぐらいの数字を発表する可能性が高い。

ただ、今度ばかりはそれをやると人々の憤激が高まること必定である。そもそも今回の新型肺炎の世界的な流行を招いた原因の一つとして、12月31日に発せされた新型肺炎の流行に警鐘を鳴らす武漢の医師たちのメッセージを警察が圧殺したということがあった。そのために、その後の数週間、武漢の市民は余り警戒心もなく行動して感染を急速に拡大させてしまった。普段から不都合な情報を隠したり、粉飾したりすることが官僚機構の習い性になっていたため、新型の肺炎の流行が始まっているという大事なメッセージを摘み取ってしまったのである。この手痛い教訓から何を学ぶかが問われている。

20200303issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年3月3日号(2月26日発売)は「AI時代の英語学習」特集。自動翻訳(機械翻訳)はどこまで使えるのか? AI翻訳・通訳を使いこなすのに必要な英語力とは? ロッシェル・カップによる、AIも間違える「交渉英語」文例集も収録。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story