コラム

ファーウェイ問題の核心

2019年01月22日(火)17時49分

日本政府や産業界でファーウェイ機器のリスクがこれまで真剣に検討された様子はないが、それがここへ来て排除へ急展開してきたのは、アメリカが同盟国に対してファーウェイ製品を排除するよう強いプレッシャーをかけてきたからだとみられる。

それに対する日本政府の対応は実に玉虫色である。機器調達に際しては情報漏洩に注意する、というのは文字通りにとれば、ごく当然のことを言っているにすぎない。アメリカに対しては「実質的にはファーウェイとZTEの排除ということで皆が了解しています」と説明し、中国に対しては「当然の原則を示しただけです」と説明するつもりなのだろう。

問題は果たしてファーウェイの機器には本当に「裏口」があって情報が中国に漏れるリスクがあるのかどうかである。私に言えることは、これまでのところそうしたリスクの存在を裏付ける決定的な証拠は挙がっていないということだけである。

4Gの機器の場合には暗号化したデータを転送するので情報を抜き取ることは難しいが、5Gになると、伝送の途中でルーターを経由するところでいったん暗号を解除するため、そこで情報が抜き取れられる可能性はゼロではない、というのがソフトバンクの最高技術責任者の見立てである(「石川温のスマホ業界新聞」Vol.305)。

ただ、これは5G一般に言えることであり、ファーウェイだけにこの可能性があるというわけではないから、ファーウェイを排除する理由にはならない。

中国製品を警戒すべき論拠としてオーストラリアの政府高官は2017年に中国で制定された「国家情報法」をあげる(『Wedge』2019年1月号、國分俊史稿)。同法の7条では「いかなる組織も公民も国家の情報活動を支持、協力しなければならない」とされているのでファーウェイやZTEも、中国の公安機関に情報を出せと言われれば出すだろう、だからリスクがある、というのである。

ただ、組織犯罪の捜査という限定された範囲ではあれ、日本にも捜査機関による盗聴を認める「通信傍受法」がある。ファーウェイのことを危険だと言っている当のアメリカでは、国家安全保障局(NSA)がグーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフト、ベライゾンなどに協力させて国内外で非常に広範囲の情報を収集していることが元NSA職員のエドワード・スノーデン氏によって暴露された(『スノーデン 日本への警告』集英社新書)。

要するに、アメリカ政府は自分たちが情報の抜き取りをやっているから中国政府もファーウェイとZTEを利用してできるに違いない、だからそれを防がなければいけないと考えているようだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、11月CPIが予想下回る 

ビジネス

トランプ氏、FRB議長候補のウォラー理事と面会 最

ワールド

トランプ氏、大麻規制緩和の大統領令に署名 分類見直

ワールド

米政権、ICC判事2人に制裁 イスラエルへの捜査巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 9
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story