コラム

EVシフトの先に見える自動車産業の激変

2017年11月09日(木)13時51分

北京市内を走るGofunのシェア自動車。奇瑞のEVを使っている Tomoo Marukawa


<中国では自転車シェアリングの成功に刺激されて、自動車シェアリングにも多くの企業が参入している。しかもそこで使われているクルマの9割が電気自動車(EV)だ。シェア自動車とEVが組み合わされば、自動車産業のあり方を根底から覆す>

──この記事は、電気自動車(EV)戦略についての考察の後編です。前編は「中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?」へ

電気自動車(EV)の最大の欠点は充電に時間がかかることである。家庭でフルに充電するには8時間、充電スタンドで「急速充電」しても40分かかる。ホンダが先だって15分で急速充電できるEVを2022年に発売すると宣言したが、それでも1分ほどで満タンになるガソリンエンジン自動車には遠く及ばない。現状では充電スタンドが少ないのも心配だが、これはEVが普及すれば自ずから解決されるだろう。しかし、充電時間は技術進歩なくしては短縮できない。

だが、もしクルマに乗りたいと思ったときに、充電されたEVが手近なところにあったらどうだろうか。乗りたいところまで行って、そこで乗り捨てる。帰りにも乗りたければ、また手近なところにあるEVに乗って帰る。充電のことを気にしなくて済むようになればEVの欠点は欠点ではなくなる。

世界に広がる自動車シェアリング

中国で2016年秋ぐらいから急速に広まった自転車シェアリングサービスは、「乗りたいときに借り、用が終わったら乗り捨てる」ということが実現可能であることを示した。同じ仕組みを自動車で実現しようとしている企業もある。ダイムラーはベルリンなど世界の25都市でcar2goという自動車シェアのサービスを行っている。街に停めてあるシェア自動車をスマホで見つけ、借りる手続きはスマホ上で行う。使い終わったら適当なところに停めれば返却完了。ドイツの都市は東京と違って自由に停められる駐車スペースが多いから、そういうところに停めておけばよい。ベルリンではcar2goのシェア自動車がすでに1100台ばら撒かれているという。

中国でも今年8月時点で31社の企業が自動車シェアを展開し、全国で3万台のシェア自動車がばら撒かれている。なかでも北京のタクシー会社が始めたGofun出行は、北京に1万台余りのクルマを配置している。中国の自動車シェアの特徴は、使っているクルマの9割がEV、それも中国メーカーのEVであることである(『21世紀経済報道』2017年8月22日、9月8日)。EVを使っているので、どこにでも乗り捨て可能というわけでなく、充電スタンドのある場所に返却しなければならない。

自動車シェアリングはまだ中国でもドイツでも交通のあり方を変えるには至っていないが、中国では今後急速に伸びて2020年には全国で17万台が配置されるだろうとの予測もある。強気の予測の背景には、北京、上海、深センなどの大都市では自動車を保有したくても規制のため保有できない人が多いことがある。中国の大都市では自動車の総量規制が行われていて、抽選に当たらないとクルマを持てない。いまや長春や大連のような中規模の都市でも街にクルマが多すぎて大変なことになっているので、規制が導入されるのは時間の問題だと思う。抽選に当たらず車が持てない人がクルマを運転したいと思った時、自動車シェアリングが役に立つ。

【参考記事】自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月東京都区部消費者物価(除く生鮮)は前年比+1.

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story