コラム

自転車シェアリングが中国で成功し、日本で失敗する理由

2017年09月13日(水)17時30分

車の利用が減ったため、北京市の渋滞は以前に比べて緩和されたし、今年1~7月の大気汚染(PM2.5濃度)は過去5年で最低になったという。このように自転車シェアリングは、公共交通の利用促進、渋滞や大気汚染の緩和に役立ち、かつそうした都市にとっての重要課題を、もっぱら民間の投資によって、地方政府のサイフを傷めることなしに実現してくれる。だから、地方政府は自転車シェアリングをもう少し行儀よくさせようとすることはあっても、都市景観を損ねるからといって潰すようなことはしないだろう。

日本では中国のニュースというとネガティブなものしか報道されない傾向が強い。自転車シェアリングについても、急速に成長し、社会革命とも言うべき変化をもたらしたが、いろいろな問題も起きているので地方政府が規制強化に乗り出した、という流れのうち、後半しか報道されないため、「中国で自転車シェアリングが問題を起こした」とだけ受け取られている。しかし、中国の自転車シェアリングは壮大な社会実験というべきもので、その経験と教訓はきっと他の国の参考になるだろう。

日本の自転車シェアはひどすぎる

とりわけ日本で自転車シェアリングを運営している人たちには、ぜひ中国へ行って自転車シェアリングを体験して欲しいと思う。私は北京と東京の両方で自転車シェアリングを利用したが、その利便性には雲泥の差があり、東京のはハッキリ言って使えない。

東京では都心の6つの区がNTTドコモの子会社のドコモ・バイクシェアとともに「自転車シェアリング広域実験」を2016年2月からやっている。中国とは違って、専用の置き場で自転車を借りて、専用の置き場に返さなくてはいけないのは不便だが、まあこれは道路に関する規制の違いに基因するものだから致し方ない。問題はこの「専用の置き場」がきわめて少ないことだ。置き場と置き場が1キロ以上離れていたりするので、「ラスト1キロ問題」の解決には役に立たない。

利用者がとても少ないので、置き場に行けばたいていは10台ぐらいシェア自転車が並んでいるが、1台もないこともあるし、置き場の場所が何度も変わってしまい、見つけるのに苦労したこともある。自転車で行こうとする距離がたかだか1.5キロぐらいなのに、置き場まで歩いたり、置き場を探すのに15分もかかるようではおよそ利用するメリットはない。

さらに、スマホで自転車を借りたり返したりするシステムがとてもお粗末で、中国のシステムの便利さ・簡単さと比べると天と地ほどの差がある。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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