コラム

イノベーションの街、深セン

2016年07月25日(月)16時40分

 一方、深センについては「規模以上工業企業」からの申請件数を示すデータが得られませんが、一般には「知財権申請の90%は企業からなされている」(于智栄「イノベーション都市・深セン」『日中経協ジャーナル』2016年5月)と考えられています。そこで深セン市の知財権および特許の申請の9割が企業によってなされていると仮定し、北京、天津、上海の「規模以上工業企業」からの申請件数と比較すると、深セン市の企業による知財権と特許の申請件数は北京、天津、上海よりはるかに多いことが推測できます。つまり、企業が事業のために研究開発を行い、その成果を知財権とすべく申請している件数では深センは中国でもっとも多いのです。

特許申請数で世界有数

 実際、2015年に特許の国際申請の数で、第2位以下を圧倒的な差で引き離して世界第1位になった華為技術(ファーウェイ)が深センに本社を置いています。また、特許の国際申請数で同年に世界第3位に入った中興通訊(ZTE)もやはり深センに本社があります。この2社はいずれも通信やネットワーク機器、スマホなどを生産している企業ですが、2008年以降、特許の国際申請の数で常に世界のトップ1~5位ぐらいの位置にあり、特許の国際申請数という尺度で測れば、いま世界でもっともイノベーティブな企業に属していると言えましょう。

 深センにはまた以前にこのコラムで紹介した中国最大のSNS「微信(ウィーチャット)」を運営するテンセントの本社もあります。テンセントは2015年の特許の国際申請数ランキングで世界第20位に入っており、インターネット・サービス会社としては異例なほどの研究開発を行っていることがうかがえます。

 深センはなぜ中国のイノベーションの首都になることができたのでしょうか。アメリカのシリコンバレーが形成された理由として大学や研究機関に近接していたことが挙げられますが、深センについてはそうした面ではまったく恵まれていません。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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