コラム

防犯対策としての「不審者探し」の限界 犯罪から子供を守るために注視すべきは「人」ではなく...

2025年04月08日(火)12時05分

そもそも、子供を狙った誘拐の8割が、だまされて連れ去られたケースだ。東京・埼玉連続児童殺人事件(宮﨑勤事件)も、神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)も、奈良女児誘拐殺害事件もそうだった。したがって、子供を被害者にしないために最も必要なのは、大声で叫んだり、走って逃げたりする練習ではなく、どうすればだまされないかを教え込むことである。

人はウソをつくから、人を見ていては、子供はだまされてしまう。だまされないためには、絶対にだまさないものを見るしかない。それが景色である。人はウソをつくが、景色はウソをつかないからだ。

景色の中で安全と危険を識別する能力のことを「景色解読力」と呼んでいる。景色からのメッセージをキャッチできれば、危険を予測し、警戒レベルを上げられるので、だまされずに済む。防犯のために注視すべきなのは、人ではなく景色なのだ。

こうした景色解読力を中核に置く理論は「犯罪機会論」と呼ばれている。そして、景色解読力を高める方法が「地域安全マップづくり」だ。

地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を風景写真を使って解説した地図である。具体的に言えば、(誰もが/犯人も)「入りやすい場所」と(誰からも/犯行が)「見えにくい場所」を洗い出したものが地域安全マップだ。誰でも楽しみながら「犯罪機会論」を学ぶことができ、その過程で「景色解読力(危険予測能力)」が自然に高まる手法として、2002年に筆者が考案した。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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