コラム

プリゴジン反乱は「ゴッドファーザー的」な幕切れに...プーチンが突入した、より露骨な暗殺の新時代

2023年08月24日(木)19時40分

「プリゴジンの死はプーチンの弱さをさらけ出した」

それまで米欧の「テロとの戦い」に協力し、羊の皮をかぶっていたプーチンが牙をむいた瞬間だった。

18年には英イングランド南西部ソールズベリーでロシアの元二重スパイとその娘が兵器級の神経剤ノビチョクで暗殺されそうになる事件が発生。意識不明だったスパイ父娘は一命をとりとめたが、元二重スパイ宅に駆けつけた捜査員も意識不明の重体になり、ノビチョク入り香水瓶を拾った男性も重体、手首にふりかけたパートナーの3児の母親は死亡した。

『プーチンの戦争:チェチェンからウクライナまで』の著書があるシンクタンク、英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のマーク・ガレオッティ上級アソシエイト研究員は英誌スペクテイターに「プリゴジンの死はプーチンの弱さをさらけ出した」と題して今回のプリゴジン暗殺から導かれる3つのポイントを挙げる。

(1)ワグネルの運命は決まった。アフリカでの事業でさえ、プリゴジンが仲介した個人的な取引や不正な資金の流れ、腐敗した協定に縛られていたことを考えれば、長期的に存続する可能性は低い。プリゴジンの宿敵であるショイグが運営する民間軍事会社がワグネルに単純に取って代われるとも思えない。

(2)クレムリンは「プリゴジンの反乱」に関する調査を終了し、同調した人物を特定できると判断した。プリゴジンの軍事的最高実力者であると疑われ、行方が分からなくなっていたスロビキンも時を同じくして正式に解任された。『ゴッドファーザー』を思い起こさせる幕切れだった。

(3)プーチンは少なくともプリゴジン暗殺の決定を承認しなければならなかったはずだが、新たな、さらに露骨な暗殺の時代に突入したということを意味する。これまでより壮大なスタイルでの復讐だ。ますます独裁的になるロシアの指導者はこれで自分の立場が強化されることを望むかもしれないが、間違いなくその逆の可能性がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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