コラム

プリゴジン反乱は「ゴッドファーザー的」な幕切れに...プーチンが突入した、より露骨な暗殺の新時代

2023年08月24日(木)19時40分
ワグネル創設者エフゲニー・プリゴジンとドミトリー・ウトキン

プリゴジンとウトキンの写真への献花(ノボシビルスク、8月24日) REUTERS/Stringer

<プリゴジンが乗る航空機にロシア軍のミサイルが命中? ワグネル最高指導部の集団暗殺は、同組織の独立性を排除する最終段階との見方も>

[ロンドン発]モスクワ北西の露トヴェリ州で墜落し、乗客7人乗員3人が全員死亡した民間航空機に「プーチンの料理番」こと露民間軍事会社ワグネルグループ創設者エフゲニー・プリゴジン(62)と同ドミトリー・ウトキン(53)が搭乗していたと23日、ロシア民間航空局が発表した。航空機はモスクワからサンクトペテルブルクに向かっていた。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」によると、内部情報源はロシア軍の長距離地対空ミサイルシステム「S-300」から発射された2発のミサイルが航空機を撃墜したと主張。 ワグネルが所有するブラジル製ビジネスジェット機エンブラエル・レガシー600(機体番号「RA-02795」)の飛行データはモスクワ時間午後6時11分以降、トヴェリ州上空で停止した。

プリゴジンの代理人として海外でワグネルの輸送ロジスティクスと民間プロジェクトを監督し、ロシアへの軍需品移転で米国の制裁を受けていたヴァレリー・チェカロフや、2015~17年にワグネルに加わり、シリアで戦っていた戦闘員も含まれていたとロシアの野党系メディアは報じているという。

露国防省とクレムリンは6月の「プリゴジンの反乱」後、ワグネルを弱体化させるとともにプリゴジンの権威を貶めていた。国防省は最近、アフリカと中東でワグネルに取って代わる民間軍事会社を結成し、ワグネル戦闘員を引き抜いていた。ワグネル最高指導部の集団暗殺はワグネルの独立性を排除するための最終段階であった可能性が高いとISWは指摘する。

「プリゴジンとウトキンはワグネルの顔」

「プリゴジンは国防省とクレムリンの『ワグナー潰し』に対抗しようとしたのだろう。プリゴジンがあわただしくアフリカに出入国を繰り返したのも、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)がアフリカでのワグネルの存在を弱体化させるための策略に対応したものだとロシアの内部情報筋はみている」(ISW)

「リーダー不在のワグネルの将来は不透明だ。プリゴジンとウトキンは紛れもなくワグネルの顔であり、彼らの暗殺はワグネルの指揮系統とワグネルブランドに劇的な影響を与えるだろう。ワグネルの指揮官や戦闘員は命の危険を感じたり、戦意を喪失したりするかもしれない。ワグネルの劣化はさらに進む可能性がある」(同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米11月中古住宅販売、0.5%増の413万戸 高金

ワールド

プーチン氏、和平に向けた譲歩否定 「ボールは欧州と

ビジネス

FRB、追加利下げ「緊急性なし」 これまでの緩和で

ワールド

ガザ飢きんは解消も、支援停止なら来春に再び危機=国
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story