コラム

ウクライナは「核攻撃を受けても戦い続ける」が、欧米の「及び腰」にプーチンの勝機

2023年02月21日(火)19時32分

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ウクライナ侵攻1年を分析するチャタムハウスの研究員。左端がキーア・ジャイルズ氏(筆者撮影)

プーチンがこの戦争に勝てないことを理解しているなら、中国が和平交渉をテーブルの上にのせ、ロシアは現在の占領地域をそのまま保持するというのがプーチンにとって勝利の方程式になる。「しかし長期的なゴールはウクライナを国でなくし、ウクライナ人を国民でなくすること、それをかつてロシアが支配していたすべての国を取り戻す第一歩にすることだ」

天然ガスや石油などエネルギーに支えられたロシア経済について、ジャイルズ氏は「経済制裁の効果は過小評価されている。短期的に見ると、確かにロシアのエネルギー販売によって制裁の効果は緩和されている。しかし長期的なインパクトを考えると、ロシアに大きなダメージを与えることになる」と解説する。

武器供与「西側にはもっとできることがある」

「問題はロシア経済が著しく劣化しても弾力性を保っていることだ。国民が政治プロセスに影響を与える手段を持つ西側諸国にとっては破滅的でも、生活水準が急落するような圧力に対してロシアは弾力性を持っている。ロシアは歴史的に国民が政府を転覆させることなく、大きな苦難にさらされてきたことを考える必要がある」(ジャイルズ氏)

西側の武器供与について、ロシア・ユーラシアプログラムのジェームズ・ニクシー部長は「一般論としてウクライナは生き残るための十分な武器を供給されているが、勝つための十分な武器は供給されていない。これはかなり意識的な決定だ。西側諸国にもっとできることがあるのは明らかだ」と指摘する。

パトリシア・ルイス国際安全保障プログラム部長は「ウクライナはロシアを撃退するのに十分な武器を与えられているが、エスカレートさせると思われるほどではない。1年前にエスカレートさせるとみなされていたものが、今日そうみなされるとは限らない。時が変われば、計算も変わる。戦争は非常にダイナミックだ」と語る。

「戦争が不可避でない限り、民主主義政府は国民を戦争に連れて行きたくない。プーチンは全くそれを気にかけず、ロシア国民をリスクにさらしている。西側の政治指導者は慎重かつ注意深く、可能な限り最善の結果を得るために調整する必要がある。欧州をさらに大きな戦争に巻き込むことは、他に選択肢がない場合にのみ行うことだ」(ルイス氏)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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