コラム

ウクライナは「核攻撃を受けても戦い続ける」が、欧米の「及び腰」にプーチンの勝機

2023年02月21日(火)19時32分

「戦闘機供与もいずれは実現する。しかし長い苦痛を伴う」

これに対し、ジャイルズ氏は「少し前までは危険すぎるという理由で排除されていたことが今では完全に許容されている。このプロセスは今後も続く。ウクライナに提供すべき新しい能力について議論されるたびに同じプロセスをたどるのはロシアの抑止作戦が成功しているからだ。戦闘機供与もいずれは実現するだろう。しかし長い苦痛を伴う」と予測する。

「ロシアを怒らせたり邪魔したりしてはいけない、そんなことをすると核エスカレーションの危険が避けられないと国民や政策決定者に思い込ませる。ロシアにとって見事な成功だ。プーチンが核兵器を口にする時、100%情報操作だ。人々はいつも核兵器がいつ使われるのか心配している。ロシアの国家メッセージの本質的な部分だ」(ジャイルズ氏)

「ロシアが非常に効果的な抑止キャンペーンを行っている時、誰もが情報に気を取られ、実際にロシアの核兵器がどんな状態に置かれているのかを注視していない。プーチンの演説やソーシャルメディアを通じてレトリックや脅迫が撒き散らされる。10年前からロシアの邪魔をすれば核戦争に発展するというメッセージは根強いものがある」(同)

「西側がロシアを分析する際に抱えている根本的な問題はロシアが変わって、脅威ではなくなるという数十年来の思い込みだ。その楽観主義が破滅的な判断ミスにつながっている」とジャイルズ氏は懸念を深める。

戦争の行方はジョー・バイデン米大統領らがロシア軍を的確に叩ける武器をウクライナに渡すかどうかにかかっている。核兵器を威嚇に使うプーチンの顔色をうかがいながら、西側の小出しの武器供与が続く。西側の備蓄や生産力に問題があるのは確かだが、その間にウクライナの兵士や市民の命がすり潰されていく。消耗戦になればプーチンの勝機が膨らむ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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