コラム

エネルギー危機で倒産の連鎖...英経済に失政でとどめ刺したトラス政権、早くも崩壊へ?

2022年10月08日(土)15時11分
リズ・トラス首相

保守党大会で演説するリズ・トラス首相(筆者撮影)

<ウクライナ戦争の余波で冬には計画停電の恐れが出てきたイギリス。住宅ローン上昇や住宅価格の下落、企業倒産、インフレと様々な問題が浮上している>

[ロンドン発]ウクライナ戦争でロシアのウラジーミル・プーチン大統領が欧州向け天然ガス供給を制限していることで急激に悪化したエネルギー危機で、英国のガス・電力供給会社「ナショナル・グリッドESO」はエネルギー危機がこのまま続けば、この冬、数百万世帯が1日3時間の計画停電を強いられる恐れがあると警告した。

リズ・トラス英首相は保守党大会の党首演説で「一般家庭の光熱費が年 6000 ポンド(約96万7900円)以上に高騰する恐れがあったが、2500ポンド(約40万3300円)に抑えた」と胸を張ったが、それだけでは未曾有の危機は乗り切れない。計画停電を避けるためには一般家庭はピーク時に暖房を弱める、洗濯機を使わないなど、徹底した省エネが求められる。

家電製品の電源を切れば1日当たり約10ポンド(約1600円)を浮かすことができる。詳細は11月1日に発表される見通しだ。しかし、他人に、ましてや政府にあれこれ指図されることが大嫌いなのが英国人気質。現在の状況は炭鉱や鉄道のストによりエドワード・ヒース首相(保守党)が計画停電に追い込まれた1970年代の暗い記憶を呼び覚ます。

ナショナル・グリッドESOのエグゼクティブ・ディレクター、フィンタン・スライ氏は「ベースのシナリオでは冬を通じて十分な電力供給を確保できると考えている。しかし世界のエネルギー市場における前例のない混乱や変動など私たちがコントロールできない外的要因やリスクに考慮することが必要だ」と臨時の石炭火力発電に備えていることを明らかにした。

住宅ローンは上昇し、住宅価格は下落する

英金融データ会社マネーファクツによると、住宅ローンの平均的な2年固定金利は、通貨安、債券安、株安の「トリプル安」の引き金になったクワジ・クワーテング財務相のミニ予算が発表された9月23日は4.74%だったが、26日には5.75%になり、30日には6.16%にハネ上がった。5年固定金利も同様に6.07%まで上昇した。

クワーテング氏は住宅ローン市場から引き上げたバークレイズやナットウエストなど銀行幹部と会い、取引を再開するよう要請した。2020年10月に20万ポンドの25年返済型住宅ローンを1.59%の金利で組んでいた場合、毎月の返済額は808ポンド(約13万円)。しかし今5.06%の2年固定に切り替えると返済額は1166ポンド(約18万8000円)に膨れ上がる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story