コラム

彼らは行動より抗議が好き...左派「反成長連合」に宣戦布告した、英首相の末期症状

2022年10月06日(木)18時30分

ジョンソン前政権はコロナワクチンの展開で「良い仕事をした」が80%(「悪い仕事をした」は13%)、ウクライナ戦争への対応は57%(同28%)、コロナ対応54%(同42%)と「有事」対応の評価は高かった。しかし医療は21%(同70%)、生活費への対応は17%(同75%)、移民対策は16%(同71%)と「平時」対応の評価が低かった。

生活費の危機、医療サービスの向上、地域格差解消に対する国民の期待度は労働党がいずれも保守党を突き放す。トラス政権がいつまで存続できるかは年2.5%の経済成長が実現できるかどうかにかかっている。しかしコロナ危機、インフレ高進、生活費の危機、ウクライナ戦争が悪化させたエネルギー危機で有権者の関心は「成長」より「分配」に向いている。

「トラス政権で平準化は主要政策ではなくなった」

先日開催された労働党大会にバーミンガムから参加したアンジェラさんは、保守党大会に合わせて開かれた抗議集会に参加した。「トラスがひどいのは分かっていたが、それでもここまでひどいとは思ってもいなかった。金持ちの税金を減らすために借金をするバカがどこにいる。生活費の危機が迫っているのに銀行員のボーナスを増やすことを許すバカがどこにいるのか」

221006kmr_tnm03.jpg

保守党大会会場周辺で抗議する市民活動家(2日、アンジェラさん提供)

「彼女は人生の大半を政治の世界で過ごしてきた。オックスフォード大学に行き、財務副大臣、国際貿易相、外相を歴任したが、何も学んで来なかった。他の意見に耳を貸そうとせず、自分だけが正しいと信じる傲慢さが原因だ。新聞は彼女を『ブリキの耳』と揶揄した。マーガレット・サッチャーは『鉄の女』と呼ばれたが、トラスは『鉄の耳』を持っている」

保守党大会では平準化をテーマにしたミニ集会が多く開かれた。英マンチェスター大学のマリア・ソボレフスカ教授(政治科学)は筆者に「平準化政策は放棄されていないが、強調はされないと思う。エリザベス女王の死去で空白があり、政府が何をしているのかよく分からない。平準化は戻ってくるかもしれないが、もう主要政策ではなくなっている」と解説する。

「トラス氏は古典的な保守党の経済思想に立ち戻った。経済が成長すれば結果として誰もが良くなると考えている。財政的にも生活費の危機という点でもこれこそが解決策だと彼女は考えている。しかしタイミングが非常に悪い。サッチャーの時の方がまだマシだった。だからトラス氏がサッチャーのように成功することはないだろう」と断言した。

221006kmr_tnm04.jpg

夫のヒュー・オリアリー氏とともに会場を後にするトラス氏。退場の日が早くも近づいている(5日筆者撮影)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story