コラム

死ぬために動員されるロシア新兵たち...「現場」は違法行為が溢れる無秩序状態に

2022年10月01日(土)15時22分
ロシア予備兵

基地に出発するため、家族と別れを告げるロシア予備兵。彼を待つ運命は……(9月28日) REUTERS/Stringer

<軍の人手不足を補うため部分動員に踏み切ったプーチンだが、秩序も装備も訓練も補給も失われ、新兵たちには「大砲の餌食」になる「消耗品」としての運命が待つ>

[ロンドン発]ウラジーミル・プーチン露大統領は30日、モスクワのクレムリンで上下両院議員らを前に演説し、占領するウクライナの東部ドネツク、ルハンスク、南部ザポリージャ、ヘルソン計4州(ウクライナ国土の約15%)の併合を宣言した。最大100万人を徴兵できる予備役動員を正当化し、エネルギー危機を悪化させ、米欧とウクライナを分断させる持久戦に持ち込む狙いがある。

ロシア国営通信社タス通信によると、4州で9月23~27日に行われたロシア編入を求める住民投票で「ドネツク人民共和国」は99.2%(投票率97.5%)、「ルハンスク人民共和国」は98.4%(同94.2%)、ザポリージャ州93.1%(同85.4%)、ヘルソン州87.1%(同78.9%)の支持を得た。投票結果を受け、各州の親露派はプーチン氏にロシアへの編入を要請した。

これに対し、ウクライナ側は「民意の捏造だ」と反発し、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も「いわゆる『住民投票』は紛争中にウクライナの憲法や法律の枠組みの外で行われたもので、真の民意ではない。 武力の威嚇や行使により、他国の領土を併合することは国連憲章と国際法に違反する。危険なエスカレーションだ」と厳しく非難した。

プーチン氏はこの日の演説で「ドネツク、ルハンスク両人民共和国、ザポリージャ、ヘルソン両地域の数百万人の選択の背景には私たちに共通する運命と千年の歴史がある。人々は精神的な絆を子や孫に受け継いできた。彼らはロシアへの愛を貫き通した。この感覚は誰にも壊されない。ソ連最後の指導者はわが偉大な祖国を引き裂き、ソ連はなくなった」と語った。

「部分動員」発表から大量のロシア人が国外脱出

「過去は取り戻せない。文化、信仰、伝統、言語によって自分たちをロシアの一部と考え、何世紀にもわたって一つの国家で暮らしてきた祖先を持つ何百万人の決意ほど強いものはない。本当の歴史的な故郷に帰ろうという決意ほど強いものはない」。プーチン氏は4州を併合した後、キーウ政権にすべての敵対行為を停止し、交渉のテーブルに戻ることを求めた。

「特別軍事作戦に参加する兵士と将校、ドンバスとノヴォロシア(黒海北岸部)の兵士、部分動員令の後に愛国的義務を果たすため軍隊に参加し、心の叫びから自ら軍の登録と入隊のためやって来た人々に語りかけたい。彼らの両親や妻や子供たちに、誰が世界を戦争と危機に投げ込み、この悲劇から血まみれの利益を得ているのかと言いたい」(プーチン氏)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米、エアフォースワン暫定機の年内納入希望 L3ハリ

ビジネス

テスラ自動車販売台数、4月も仏・デンマークで大幅減

ワールド

英住宅ローン融資、3月は4年ぶり大幅増 優遇税制の

ビジネス

LSEG、第1四半期収益は予想上回る 市場部門が好
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story