コラム

英ジョンソン政権が崩壊の危機...「政界の道化師」の複雑怪奇な「功罪」を振り返る

2022年07月06日(水)11時24分
英ジョンソン首相

Jonathan Ernst/Pool-REUTERS

<スキャンダルと功績を交互に繰り返し、それでもイギリスに愛されてきたジョンソン首相だが、2閣僚らの辞任でいよいよ瀬戸際に追い詰められた>

[ロンドン発]不祥事続きのボリス・ジョンソン英首相を支えてきた重要閣僚のリシ・スナク財務相とサジド・ジャビド保健・社会ケア相を含む9人が5日、辞任した。クリス・ピンチャー氏の性行為疑惑について説明を受けていたにもかかわらず、院内副幹事長に任命(6月30日に辞任)したことは間違いだったとジョンソン氏が認めた直後だった。

スナク氏は首相宛の辞任書簡で「わが国は底知れない困難に直面している。首相と私はともに低税率の高成長経済と世界クラスの公共サービスを望んでいるが、懸命に働き、犠牲を払い、難しい決断をする覚悟がなければ責任を持って実現することはできない。より良い未来への道がある一方で、それは簡単ではないことを知る必要がある」と強調した。

終生のライバルだったトニー・ブレア首相とゴードン・ブラウン財務相の例はあるものの、本来、イギリスの首相と財務相は一心同体でなければ閣内不一致の原因になる。スナク氏はしかし「来週に予定されている経済に関する共同演説の準備で私たちのアプローチが根本的に違いすぎることが明らかになった」と辞任の理由について語っている。

保健相を辞任したジャビド氏は2020年2月にも首相側近のドミニク・カミングズ首席顧問(当時)の介入を嫌って、財務相を辞任している。ジャビド氏は辞任書簡で「先月の信任投票は謙虚さ、毅然さ、新たな方向性を示す最後のチャンスだった。しかし残念なことにあなたのリーダーシップの下ではこの状況は変わらないことは明らかだ」と述べた。

EU離脱とワクチン展開の成功で一時は「10年政権確実」

欧州連合(EU)離脱と迅速なワクチン展開で一時は「10年政権は確実」と言われたジョンソン氏だが、非常識で思慮のない行動で墓穴を掘ってきた。コメディアンさながらの風貌と突拍子もない言動で「政界の道化師」と呼ばれていたジョンソン氏が首相に就任したのはEU離脱交渉最中の19年7月だった。

同年末の総選挙で「何が何でもEUを離脱する」と宣言して地滑り的大勝利を収め、翌20年1月末、イギリスは前身の欧州経済共同体(EEC)時代を含めて47年間加盟してきたEUを離脱した。コロナ危機では19万7000人超の死者を出しながらも世界に先んじてワクチンの集団予防接種を展開し、2年ぶりに行われた昨年5月の統一地方選で圧勝した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

医薬品メーカー、米国で350品目値上げ トランプ氏

ビジネス

中国、人民元バスケットのウエート調整 円に代わりウ

ワールド

台湾は31日も警戒態勢維持、中国大規模演習終了を発

ビジネス

中国、26年投資計画発表 420億ドル規模の「二大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story