コラム

ドンバスでの「小さな勝利」にすがるプーチン、「局地的な反乱相次ぐ」英機密報告書

2022年05月31日(火)20時40分
親ロシア派戦車

ウクライナ東部ルハンスクの町中を走る親ロシア派の戦車(5月26日) Alexander Ermochenko-REUTERS

<プーチンは依然としてウクライナ東部ドンバスでの勝利は可能だと信じているが、そのために払う犠牲はロシア軍にとって重すぎると英機密文書では分析される>

[ポーランド東部ルブリン発]ウクライナに侵攻するロシアのウラジーミル・プーチン大統領がすでに3万350人の兵士を失ったにもかかわらず、東部ドンバスでの「小さな勝利」を手にするためには支払うに値する代償だと考えている──英大衆紙デーリー・ミラーは、ロシア軍の現状と問題点を分析した英機密報告書の内容をスクープした。

英国防情報部も5月30日のツイートで「ロシア軍は中堅・下級将校が壊滅的な損失を被っているとみられる」と指摘。「旅団や大隊の指揮官は部隊のパフォーマンスに対し容赦ない責任を負わされるため、危険な場所に前方展開せざるを得なくなっている」と分析している。

「ロシア陸軍は米欧の軍隊のように高度な訓練を受け、権限を与えられた下士官の幹部がいない。このため、訓練不足の下士官が最下層の戦術的行動を指揮しなければならない状況に追い込まれている。また、若手の専門将校を大量に失ったことは、指揮統制を近代化する上ですでに抱え込んでいるロシア軍の問題をさらに悪化させる可能性が高い」という。

ロシア軍はウクライナ戦争で生き残った大隊戦術群(BTG)を再編しているものの、若手将校不足により、あまり成果を期待できない可能性がある。さらに経験豊富で信頼できる小隊や中隊の指揮官も足りず、さらなる士気低下や規律低下が続いているとみられる。ロシア軍内では局地的な反乱が起きているという信頼できる報告が複数あると報告している。

国内強硬派に突き上げられるプーチン

一方、米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」によると、ロシア軍内部や戦争推進派の間でクレムリンが戦争に勝つために十分なことをしていないと主張する声が増え続けている。例えば、元ロシア連邦保安局(FSB)の強硬派イゴール・ガーキン氏は「特別軍事作戦」の優先順位は東部ドンバスの解放だというセルゲイ・ラブロフ露外相の発言を批判した。

クレムリンは大軍による威嚇で親露派の傀儡政権をキーウに樹立するという戦争目的を達成できなかったため、目標を繰り返し下方修正している。これに対してガーキン氏は、クレムリンはウクライナ全体ではなくドンバスに焦点を絞ることで、ウクライナの「非ナチ化」や「非武装化」という「戦争の大義」を放棄してしまったと非難している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、豪重要鉱物プロジェクトに直接出資の用意=通商

ビジネス

訂正-EXCLUSIVE-インドネシア国営企業、ト

ワールド

アングル:サウジ皇太子擁護のトランプ氏、米の伝統的

ビジネス

午前のドルはドル157円前半でもみ合い、財務相の円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story