コラム

ウクライナ侵攻が始まった プーチン氏の攻撃性は追い詰められたヒグマの防衛本能か

2022年02月22日(火)21時35分

ウクライナ情勢の緊迫化を受けてルーマニアに配備された米軍戦闘機(2月17日) U.S. Air Force/Ali Stewart/ REUTERS

[ロンドン発]ウクライナ国境に最大19万人の部隊を貼り付けるウラジーミル・プーチン露大統領は21日、親露派が支配するウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認、平和維持のためとしてロシア軍を派兵した。米シンクタンク、戦争研究所(ISW)は境界を警戒するウクライナ軍をロシア軍が攻撃し、数日中に親露派の支配が及ばない東部地域に空爆やミサイル攻撃を行う可能性が強いと分析した。

ロシアとウクライナは一つと公言してきたプーチン氏は21日「現在のウクライナは、完全にロシア、突き詰めて言えばボリシェヴィキ(レーニンが率いた一派)と共産主義のロシアによって作られた。このプロセスは1917年の革命の直後に始まり、さらにレーニンとその仲間たちは歴史的な国土を分断するという最もずさんな方法でそれを行った」と演説し、主権国家としてのウクライナはフィクションだと切り捨てた。

「ウクライナは国ではなく、歴史的にロシアの一部だ」という考えはロシア指導層に浸透しているとされる。「キエフはロシアの都市の母だ。古代ロシアはわれわれ(ロシア人、ベラルーシ人、ウクライナ人)の共通の源であり、われわれはお互いなしでは生きられない」とプーチン氏は主張し、2017年にはドナルド・トランプ米大統領(当時)も「ウクライナは『本当の国』ではなく、ずっとロシアの一部だった」と発言したと報じられている。

しかし「9世紀に誕生したキエフ大公国はロシアとウクライナの基礎を築いた共同祖先の地とみなされるが、13世紀にモンゴルに征服されるまでロシアは断片的な諸侯の連合体だった。キエフを含む現在のウクライナの大部分は14世紀初頭から400年間、ポーランドとリトアニアに支配されていた」とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で国際関係を教えていたビョルン・アレクサンダー・ドゥベン博士はLSEサイトに寄稿している。

武力で威嚇する「強要(compellence)」

ウクライナはソ連崩壊に伴い、1991年に独立。次第に米欧への傾斜を深めるウクライナにプーチン氏は強い懸念を抱くようになる。独裁者による侵略は自国にとって都合の良い歴史の書き換え、すなわち歴史戦争が先行することを今回の危機は私たちに教えてくれる。戦争研究所は「ロシアはすぐに本格的な侵攻を開始するのではなく、段階的にアプローチする可能性が高い」と指摘する。これは武力で威嚇する「強要(compellence)」だからだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ベスト・バイ、通期予想を上方修正 年末商戦堅調で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平合意「極めて近い」 詳細

ワールド

中国の米国産大豆の購入は「予定通り」─米財務長官=

ワールド

ハセットNEC委員長、次期FRB議長の最有力候補に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    使っていたら変更を! 「使用頻度の高いパスワード」…
  • 10
    トランプの脅威から祖国を守るため、「環境派」の顔…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story