コラム

コロナ再流行、ワクチン接種義務化の是非をめぐり暴動が吹き荒れる欧州

2021年11月22日(月)16時13分
ブリュッセルの反ワクチンデモ

警察の放水銃から逃げる反ワクチンのデモ参加者たち(11月21日、ブリュッセル) Twitter/@jordynuyts/REUTERS

<何も対策を取らなければ欧州では3月までにあと50万人が死ぬと言われるが、ワクチン接種もマスク着用も上から押し付けられるほど人々は不信感を抱き、怒り、逃げ道を探す>

[ロンドン発]「隷属より自由を」――ベルギーの首都ブリュッセルで21日、コロナの再流行を抑えるため飲食店でワクチンパスポートの提示が義務化されることに反発した若者ら約4万人が街頭に繰り出した。一部が暴徒化して警官隊と衝突、42人が拘束され、2人が逮捕された。また警官3人が負傷、デモ参加者1人が手に持っていた花火でやけどした。

現地からの報道をまとめると、若者たちはオランダ語圏のフラマン民族主義や「自由のために団結しよう」と訴えた旗を振りかざし「ヤツらは世界中でワクチン接種を展開しても、飢餓は放ったらかしだ」と書かれたプラカードを掲げた。一部の若者が発煙筒や火炎瓶、レンガを投げ始めたため、警官隊は催涙弾や放水で応戦した。

ベルギーでは同日、コロナの新規感染者数が1万3836人に達した。レストランやバーでは入店時にワクチン接種や陰性の検査結果、感染からの回復を証明する「パスポート」を提示しなければならず、店内では着席していない限りマスク着用が義務付けられる。週4日以上は在宅勤務になるなどコロナ対策が強化された。医療従事者の接種義務化の計画もある。

3人に1人が未接種というオーストリアも再流行に苦しめられている。22日から最大20日間の予定でロックダウン(都市封鎖)に入る。来年2月から他国に先駆け接種を義務化する方針だ。同国のアレクサンダー・シャレンベルク首相は「デタラメな反ワクチン派、偽ニュースのため、多くの人が接種しないよう扇動された」と語る。

首都ウィーンでは20日、極右グループを中心に約3万人がデモに参加、新たなコロナ対策や接種義務化に抗議して一部が暴徒化し、警官5人が負傷した。デモ参加者の中には医師をあざ笑うかのように医療用スクラブを着ている人もいれば、ナチスがユダヤ人にバッジを強制的に着けたことから黄色い星のバッジを着ける人もいた。

極右グループはオーストリア国旗を打ち振り「レジスタンス!」と叫んでホイッスルを吹き鳴らし、レストランやクリスマス市、スポーツイベントなどの入場に「パスポート」提示を義務付けることに抗議した。黄色い星に「ワクチン未接種」の文字を縫い付け、ロックダウンや接種義務化をナチスの残虐行為と並べてみせた。

オランダでは警官がデモ隊に向け発砲

オランダのロッテルダムでは19日、ワクチンパスポートを導入する政府のコロナ対策への抗議活動が暴徒化した。石や花火を投げるデモ参加者に向け、警官隊が発砲、3人が被弾して負傷した。パトカーに火が放たれ、警察は51人を逮捕した。約半数が未成年者だったという。抗議活動はオランダ各地に広がり、3日間にわたって続いた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米主要港ロサンゼルス、5月の輸入は前年比9%減 対

ワールド

ベトナム、米との貿易交渉進展 主要な問題は未解決

ワールド

ベトナムがBRICS「パートナー国」に 10番目の

ワールド

トランプ米政権、入国制限に36カ国追加を検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story