コラム

COP26で外交デビューの岸田首相に不名誉な「化石賞」

2021年11月03日(水)09時34分
CP26での岸田首相

グラスゴーで開催中のCOP26でつっかえつっかえ演説を読む岸田首相(11月2日) Hannah McKay-REUTERS

<石炭火力発電を温存延命しようとする日本の方針は、2030年までに石炭火力発電の廃止を唱える議長国のジョンソン首相や世界の主張に逆行>

[英北部スコットランド・グラスゴー]2日、英グラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の世界リーダーズ・サミットで岸田文雄首相が演説した。

「この10年が勝負。高い野心をもってともに全力を尽くそう」と日本語で力説したものの、国内だけでなくアジアでも化石火力発電を残す緩和策だったため、国際環境団体から不名誉な「本日の化石賞」に選ばれた。

「本日の化石賞」は温暖化対策や交渉の足を引っ張った国に贈られる。岸田首相の受賞理由は「演説で化石燃料の火力発電を推進した」ことだ。

COP26では厳重な要人警護とコロナ対策で運営が大混乱している。このため議長国のイギリスと、非常に低い温室効果ガス排出量の削減目標を掲げたオーストラリアに初日の「化石賞」が贈られた。

岸田首相は「2050年カーボンニュートラル」を実現するとして、30年度の排出量を13年度比で46%削減し、さらに50%に向け挑戦を続ける方針を繰り返したものの、ボリス・ジョンソン英首相が主導する「脱石炭」とは全く逆行する温暖化防止の道筋を示した。

アジアを中心に再生可能エネルギーを最大限導入しながら、化石火力をアンモニア・水素などの「ゼロエミッション火力」に転換するため1億ドル(約114億円)規模の先導的な事業を展開するという。

岸田首相の手土産は「脱石炭」ではなく、100億ドルの追加支援

岸田首相は先進国全体で年1千億ドル(約11兆4千億円)の資金目標の不足分を補うため、すでに表明している5年間で官民合わせて600億ドル(約6兆8400億円)の支援に加え、アジア開発銀行などと協力し、最大100億ドル(約1兆1400億円)の途上国への追加支援を行う用意があると表明した。

ジョンソン首相は、先進国は30年までに石炭火力発電の廃止、途上国も40年までの廃止を掲げる。10月の岸田首相との電話会談では「国内の石炭火力発電の廃止に関する日本の誓い」を期待したが、岸田首相がCOP26に持参したのは100億ドルの追加支援だった。

環境NPO「気候ネットワーク」の浅岡美恵代表は「大変残念な外交デビューとなった。日本政府は30年の電源構成に占める石炭火力発電を19%とし、50年に向けて石炭を維持する方針だが、これを見直す意思は示されなかった」と指摘する。

「『アンモニア・水素などの脱炭素燃料の混焼や二酸化炭素(CO2)回収・有効利用・貯留(CCUS)/カーボンリサイクルなどの火力発電からのCO2排出を削減する措置の促進』とした第6次エネルギー基本計画をもとに、アジアの国々にも同様の対応を表明したが、アジアの脱炭素化をも遅らせることになる」と批判した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

政府、25・26年度の成長率見通し上方修正 政策効

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story