コラム

「激痛のあまり『殺して下さい』と口走っていた」医療アクセス絞るオランダで感じた恐怖【コロナ緊急連載】

2021年01月22日(金)14時20分

やっと病院で診てもらえた大崎さんと、ベッドのそばにいてくれた自分も陽性の夫デニスさん(オランダ、本人提供)

[ロンドン発]「新型コロナウイルスに感染しても重症化したり亡くなったりする人は高齢者や基礎疾患のある人がほとんど。テレビで映し出される集中治療室(ICU)は悲痛で、ドラマチック過ぎてどこまで病院が逼迫しているか、普通の人には実感として分からないのだと思います」

オランダ・ロッテルダム在住の大崎祐子さん(43)はコロナに感染して発症したが、なかなか病院に入れず自宅で苦痛と恐怖を味わった。ロンドンで暮らす筆者は「原則無償の英国民医療サービス(NHS)では病院ではなかなか診てもらえない」と不平を言っていたが、オランダはそれ以上だということを大崎さんの話を聞いて思い知らされた。

人口100万人当たりのコロナ入院患者数で比べると、感染力が最大70%も強い変異株の大流行で医療崩壊寸前の闘いが続くイギリスと日本のコロナ入院患者の割合はそれほど変わらない。これに対して医療へのアクセスを絞るオランダのコロナ入院患者の割合は極端に少ないことが一目瞭然だ。

kimurachart.jpg

大阪市出身の大崎さんは気管支が弱く、日本にいた時は熱が出るとすぐに病院に行って熱冷ましの注射を射ってもらうタイプだった。

コロナで初めて病院に行けた

オランダでは「ホームドクター」と呼ばれるかかりつけ医がプライマリ・ケアを行っている。

「ホームドクターに電話しても、それでは来週来てと言われるのが普通です。とにかく鎮痛薬のパラセタモールやイブプロフェンが手放せません。オランダで暮らすようになったのは2015年8月からですが、コロナにかかるまで病院に行ったことがありませんでした」

コロナは人によってそれぞれ症状は異なる。大崎さんの体験談は、いつでもどこでも病院ですぐに診てもらえる日本人の感覚では『ホラー映画』のように思えるかもしれない。それは昨年11月下旬、夫のデニスさんがボスの求めに応じ、出勤日数を週1~2回から3回に増やしたことから始まった。

デニスさんは鼻をグズグズ言わせて、頭が痛いと訴えた。そのころオランダでも第2波がぶり返し、陽性患者が急増していた。11月22日、ドライブスルーでPCR検査を受けた結果、2日後に陽性と判明した。

症状が出てからデニスさんは寝室と書斎、大崎さんはリビングと小さいアパートで住み分けはしていたものの、夫婦間感染はやはり防げなかった。

大崎さんは風邪薬としてよく服用される漢方薬の葛根湯を飲んだものの、ノドに重たい物が貼り付いたような鈍痛がした。鼻がグズグズして微熱が出てデニスさんと同じように11月28日にドライブスルーでPCR検査を受けたところ翌日、陽性と判明した。体温は摂氏38度に上がっていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、トランプ氏と28日会談 領土など和

ワールド

ロシア高官、和平案巡り米側と接触 協議継続へ=大統

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 8
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story