コラム

「激痛のあまり『殺して下さい』と口走っていた」医療アクセス絞るオランダで感じた恐怖【コロナ緊急連載】

2021年01月22日(金)14時20分

咳がひどくなり、焼けた杖を同時に全身に突き刺されたような激痛が走った。

「夫が病院に電話してくれましたが、ホームドクターを通してくれの一点張りでした。電気が走ったような激痛が全身を無秩序に襲い、声も出ない、息も止まる苦しさでした」

「それでもパラセタモールやイブプロフェンしかありません。あまりの痛みに耐えきれず夫に『殺して下さい』と口走ると、何もできない夫の目から涙がこぼれました」

体温は39.5度まで上昇した。記憶にあるのは痛さだけだ。ホームドクターでようやく診てもらえたのは12月8日。血中酸素濃度は92~93%まで下がっていた。正常値は96~99%だ。医師は「あなたは若いから鼻で呼吸してみて」と指導した。

鼻呼吸で数値が94~95%まで回復すると「自宅で療養して下さい」と帰された。その晩、咳が止まらず、息ができなくなった。

病院で診てもらえて初めて安心

今度は通常のホームドクター経由ではなく、医療支援団体に電話をして症状を訴えると、初めて病院を紹介してくれた。病院では55分間待たされたが、医師が鼻から酸素吸入してくれた。

kimurawoman.JPG
病院で鼻から酸素吸入を受ける大崎さん(本人提供)

血中酸素濃度はようやく90%を超えるレベルだった。医師は「肺にダメージがあるかもしれないので入院しましょう」と言った。「ホッとしました。シールドされた診察室から消化器病棟に移されました。痛み止めの注射を射ってもらい、病院で診てもらえて初めて安心しました」と大崎さんは言う。

デニスさんも陽性だったので、入院することになった9日は夜までずっとそばにいてくれた。医師が恐れていた肺塞栓症ではないことがCTスキャンの検査で判明したので、若い大崎さんは翌10日夕には酸素ボンベを携えて退院し、再び自宅療養することになった。

クリスマスはベッドから起きて、2~3時間ソファに座ると息切れがした。20分もテレビを観ると目眩(めまい)がした。酸素を吸入すると血中酸素濃度は96%まで上昇するものの、鼻孔が乾燥してひび割れし、鼻血が噴き出して血だらけになった。大崎さんは92~93%のレベルで酸素ボンベを外す決断をした。

スパルタ式に体を動かしていると、大晦日ぐらいから94%から下になることはなくなった。自宅療養中、担当の看護師は毎日電話をくれた。スマートフォンにダウンロードしたアプリに自分で測定したバイタルを入力、緊急連絡すると20分ぐらいで医師が折り返してくれる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ政府、大麻規制を再導入へ 22年の解禁政策見直

ワールド

イラン指導部は「張り子の虎」、平和的に交代へ=ノー

ビジネス

原油先物は小幅続伸、米原油在庫減少が堅調な需要示唆

ビジネス

トランプ氏一族の企業、ステーブルコイン監査と新しい
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 3
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 4
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 5
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 6
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 9
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 8
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story