コラム

「合意なきEU離脱」に突き進む英国 労働党は2回目の国民投票も選択肢に 党内では「内戦」が激化

2018年09月25日(火)14時00分

8月上旬に実施された別のユーガブ1万人調査では「合意なき離脱」となった場合、50%が2回目の国民投票を求めており、議会に任せると答えたのはその半分の25%に過ぎなかった。

2年前のEU国民投票で65%が離脱に投票したイングランド北東部サンダーランド選出のブリジット・フィリップソン下院議員に筆者はこんな疑問をぶつけた。同議員は2回目の国民投票を支持している。

「サンダーランドには日産の工場があるが、合意なき離脱になると日産は英国から出ていくかもしれない。地元の人は日産に搾取されているとでも考えていたのか。彼らの気持ちは変わったのか」

kimura20180925102103.jpg
サンダーランド選出のブリジット・フィリップソン下院議員(筆者撮影)

フィリップソン氏はこう答えた。「サンダーランドの人たちが離脱に投票したのは金融危機のあと、置き去りにされ、子供の貧困が増えるといった苦境にノーと言いたかったからだ。日産の工場は地元の雇用にとってとても重要だ。労働党は2回目の国民投票を通じてEU離脱がもたらす深刻な影響について有権者を説得できる」

「2回目の投票よりソフトブレグジットを」

しかし2年前の国民投票を重視する執行部と、離脱決定そのものをひっくり返したい残留派との対立は続いている。

労働党の元党首ニール・キノック氏を父に持ち、妻はヘレ・トーニング=シュミット前デンマーク首相というスティーブン・キノック下院議員は「2回目の国民投票で危険なまでに広がった英国社会の分断を修復することはできない。状況をさらに悪くするだけだ」と否定的だ。

kimura20180925102104.jpg
2回目の国民投票に否定的なキノック下院議員(筆者撮影)

「総選挙をするにしても、2回目の国民投票をするにしても時間がなさすぎる。最後の最後で労働党が保守党政権と協力する可能性はあるか」という筆者の問いにキノック氏はこう答えた。

「労働党はノルウェーのように欧州経済領域(EEA)に加盟し、EUの関税同盟にも留まる穏健離脱(ソフトブレグジット)を推進すべきだ。EUに拒絶されたテリーザ・メイ首相の現在の離脱案は暗礁に乗り上げた。『合意なき離脱』は政府によっても議会によっても許されるべきではない」

「『敵が過ちを犯している時は放っておけ』というナポレオンのものとされる格言がある。EUとの合意案が議会で否決されれば、総選挙になって労働党が勝つのかもしれないが、党利党略を国益に優先させたと非難される状況に労働党を置くべきではない」「労働党の離脱案がよく分からないというのでは有権者に理解されない。ナポレオンには常にプランがあった」

英国のEU離脱交渉の行方は予測するのが極めて難しくなっている。キングス・カレッジ・ロンドンのアナンド・メノン教授は「本当に無理をして予測しろと言われれば、メイ首相がEUとの修正に応じて合意し、議会で保守党の強硬離脱(ハードブレグジット)派の造反にあいながらも労働党から一部支持を得て通過する可能性はある。しかし、あまりにも不確実性が多すぎる」と深いため息をついた。


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

モディ印首相、中国との「関係改善に尽力」 習主席と

ワールド

インドネシア大統領、訪中取りやめ 首都デモが各地に

ビジネス

中国製造業PMI、8月は5カ月連続縮小 内需さえず

ワールド

ロシア軍参謀総長、前線で攻勢主張 春以降に3500
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマンスも変える「頸部トレーニング」の真実とは?
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シャロン・ストーンの過激衣装にネット衝撃
  • 4
    「体を動かすと頭が冴える」は気のせいじゃなかった⋯…
  • 5
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 6
    就寝中に体の上を這い回る「危険生物」に気付いた女…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    シャーロット王女とルイ王子の「きょうだい愛」の瞬…
  • 9
    映画『K-POPガールズ! デーモン・ハンターズ』が世…
  • 10
    世界でも珍しい「日本の水泳授業」、消滅の危機にあ…
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 3
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 4
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 5
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 8
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 9
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story