コラム

厳戒のクリスマス、ベルリンテロで難民申請者を公開捜査 開放政策ではテロは防げない

2016年12月22日(木)18時00分

トラック突入テロの現場となったベルリンのクリスマスマーケット Hannibal Hanschke-REUTERS

 19日、ベルリンのクリスマスマーケットにトラックが突っ込み、12人が犠牲になるテロがあり、ドイツ警察当局は21日、難民認定を申請したものの却下されたチュニジア出身のアニス・アムリ容疑者(24)の公開捜査に踏み切った。アムリ容疑者が短銃を所持している恐れがあることから、最大10万ユーロ(約1200万円)の報奨金を出し情報提供を呼びかけている。

 トラックの助手席でポーランド人男性が刺され、短銃で撃たれて死んでいたが、アムリ容疑者がトラックをハイジャックしようとした際、抵抗したため刺されたようだ。男性はまだ息があったが、アムリ容疑者は逃走する直前、短銃でとどめをさしていた。運転席からアムリ容疑者の身分証明書が見つかった。男性ともみ合いになり、落としたとみられている。

 これまでの報道によると、アムリ容疑者は6つの名前と3つの国籍を持っており、今年3~9月の間、ドイツ治安・情報当局の監視対象になっていた。8月にはイタリアの偽造パスポートを所持していた容疑で逮捕されているが、イスラム過激派組織とのつながりが分からなかったため監視対象から外されていた。

 アムリ容疑者は2010年にチュニジアを出国。強盗罪で欠席裁判にかけられ、5年の有期刑が言い渡されている。12年にイタリアに渡ったものの学校に放火したとして4年間服役し、15年にドイツに入国。今年4月、難民認定を申請したが却下された。身分証明証がなかったため、チュニジアへの即時、強制送還を免れ、一時的に滞在が許可されていた。

相次いだ難民による犯罪被害

 昨年の難民危機でメルケル独首相が「門戸開放」を表明し、100万人を超える難民がドイツに押し寄せた。大晦日に西部ケルンで560人以上の女性が大勢の男に取り囲まれ、性的暴行や窃盗など650件以上の被害が報告される事件が起きた。容疑者の半数以上がアルジェリアやモロッコなどの難民だった。

 ドイツでは今年7月にパキスタン人難民申請者が斧とナイフで列車の乗客を襲撃▽イラン難民の息子が9人を射殺▽シリア難民がナタで妊婦らを殺傷▽難民申請を却下された27 歳のシリア難民が自爆テロを起こしている。そして今回のトラック突入テロ。ドイツの寛容とリベラルな精神が改めて試されている。

 メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党であるキリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首は「私たちは犠牲になられた方々と遺族、そして国民のために移民と安全保障に関するすべての政策を再考し、見直す責任を負っている」とメルケル首相を突き上げた。

 メルケル首相は「試練の日だ。ドイツは一つになって悲しんでいる。私たちは自由で一つの、開かれたドイツに生きることを望んでいる」と追悼の意を捧げたものの、善意で受け入れた難民からテロ攻撃を受けることについて「私たち全員にとって寛容であるのは難しい」と苦衷をのぞかせた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ当局者、中国EV現地生産に優遇策適用せず 

ワールド

WHOと専門家、コロナ禍受け「空気感染」の定義で合

ワールド

麻生自民党副総裁22日─25日米ニューヨーク訪問=

ワールド

米州のデング熱流行が「非常事態」に、1カ月で約50
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story