コラム

「ブレグジット」の妙案をひねり出せ 新首相メイが出した夏休みの宿題

2016年09月01日(木)16時20分

 ブレグジットをもう一度見つめ直そうと、かつてカトリック系住民がプロテスタント系住民と対等の市民権を求めて激しい闘争を繰り広げた北アイルランドのデリーやベルファスト、そしてアイルランド国境に近いニューリーを訪ねて、今、アイルランドの首都ダブリンのホテルに滞在している。長距離バスで英国・北アイルランド側のニューリーからアイルランドに入る際、簡単なID(個人識別)カードのチェックはあったものの、国境はほとんど意識しなかった。それに比べて、同じ英国の都市でもベルファストのプロテスタント居住区とカトリック居住区は高さ7.6メートルの「平和の壁」に隔てられていた。

 イングランド地方に圧倒的に多かったEU離脱派は「国境を取り戻せ」と声高に主張した。そのメンタリティーは国の中に境界をつくったベルファストの「平和の壁」に凝縮できるかもしれない。

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北アイルランド側のニューリーではポンドでもユーロでも買い物ができる Masato Kimura

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カトリック居住区とプロテスタント居住区を隔てるベルファストの「平和の壁」 Masato Kimura

 境界を強調して壁を築けば人や物、金の移動が妨げられ、経済は停滞する。現実主義の英国が日本の後を追うとは思わないが、移民を大幅に規制する一方で高い成長力を維持する魔法のような答案がメイに描けるのか。英国の未来は英国民が決めるとは言え、英国と欧州の前途多難を考えると他国のことながら暗澹たる気分にならざるを得ない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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