コラム

閉ざされた「愛の橋」 寛容の国スウェーデンまで国境管理

2016年01月08日(金)15時00分

デンマークとスウェーデンを結ぶ橋オーレンス・リンクは「愛の橋」と呼ばれている mikdam-iStock.

 デンマーク・コペンハーゲンとスウェーデン南部マルメの間のオーレスン海峡に架けられた橋はかつて「愛の橋」と称賛された。鉄道と道路の併用橋であるオーレスン・リンクの橋梁部分は7845メートル。2000年に開通した際には、往年の米人気デュオ、サイモン&ガーファンクルのヒット曲になぞらえ、「明日に架ける橋」とも呼ばれた。

 スウェーデンにはデンマークの支配下に置かれた歴史がある。そして第二次大戦の前夜、「J」と刻印されたドイツ・パスポートを持つユダヤ人を国境で追い返した暗い過去を記憶にとどめている。国境を越えた自由な移動が平和と繁栄をもたらすという強い信念のもと、両国の間に橋が架けられた。スウェーデンとデンマークは単一通貨ユーロこそ導入していないものの、欧州連合(EU)加盟国。いずれもパスポートなしで自由に行き来できるシェンゲン協定に参加している。

 オーレスン・リンクを使って通勤客や買い物客がコペンハーゲンとマルメの間を往復するようになった。しかし2001年11月のデンマーク総選挙で、移民規制の強化を訴えた自由党が躍進し、少数中道右派連立政権を発足させた。極右・デンマーク国民党が閣外協力し、デンマーク人が外国人と結婚しても2人とも24歳以上にならないとデンマークに呼び寄せられないという厳格なルールが導入された。狙いはイスラム系移民が増えるのを抑制するためだった。

 かたや移民に寛容なスウェーデンでは結婚すれば、配偶者が外国人であっても年齢を問わずにすぐに呼び寄せることができた。どちらかが24歳未満のデンマーク人と外国人のカップルはオーレスン・リンクに目をつけた。デンマーク人のEU市民権を利用してマルメなどスウェーデン南部に居を移し、オーレスン・リンクを使ってコペンハーゲンなどデンマークの職場に通勤する。マルメからコペンハーゲンまで鉄道なら片道35分。3カ月辛抱すれば外国人の配偶者もEU市民権を取得できる。その後、晴れてデンマークで一緒に暮らせるという段取りだ。

 実際にオースレン・リンクを使って愛を育むカップルが相次いだため、いつしか「愛の橋」と呼ばれるようになり、テレビ・ドラマにもなった。オースレン・リンクは欧州統合の理念である「移動の自由」の象徴だった。しかし1月4日からスウェーデン政府はオースレン・リンクなどで、難民流入を制限する措置としてデンマークからの入国者にパスポートなど写真付き身分証明書(ID)のチェックを始めた。この半世紀で初めての措置だという。これを受けて、デンマークもドイツ国境で写真付きIDの検査を始めた。バルカン半島や地中海を通ってドイツからスウェーデンへと向かう難民の流れを制限するためだ。難民に対する「愛の橋」は閉ざされた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、トランプ氏主導の「平和評議会」と協議

ワールド

IMF、中国26年成長率予測4.5%に維持 不動産

ビジネス

リオティント、通期利益が予想に届かず 鉄鉱石価格の

ワールド

米インドネシア企業、総額384億ドルの契約に署名 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 3
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 4
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではな…
  • 5
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 6
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 7
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 10
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story