コラム

インフレと金利上昇で揺れる不動産市場...「持ち家」「賃貸」論争に変化の兆し?

2024年08月30日(金)14時00分

newsweekjp_20240829022019.png

アジア各国の不動産価格の推移 ILLUSTRATION BY PAVEL VINNIK/ISTOCK (BACKGROUND)

だが近年は、新規物件の開発があらゆる地域に及んでおり、一昔前では人気がなかった地域にも次々とマンションが建設されている。ブルックリンにある、築3年、床面積115平方メートルの中古マンションは、190万ドル(2億8500万円)で販売されていた。現在のニューヨークでは、住所にかかわらず裕福な層しかマンションを購入できないのが現実といえるだろう。

イギリスのロンドンも似たような状況であり、不動産価格の高騰はたびたび政治問題化している。ロンドンはもともとシティと呼ばれる金融街が発達しており、世界各国から多くの投資マネーを集めることでビジネスを成り立たせてきた経緯がある。海外投資家にとってロンドンの不動産は、最も安全で確実に投資できる優良資産の1つであり、こうした海外マネーの流入が物件価格の高騰に拍車をかけている状況だ。


海外マネーの影響は東南アジア各国でも顕著となっている。フィリピンやタイは比較的所得の高い外国人の移住を積極的に受け入れる政策を続けており、外国人向けの投資優遇策を打ち出している。両国では、もともと外国人による不動産取得には制限が加えられているが、集合住宅は自由に購入できるので、外国人投資家にとって魅力的な投資対象となっている。

タイの首都バンコクでは、外国人が多く住むスクンビットと呼ばれるエリア(東京では港区に相当する)を中心に高層コンドミニアムが多数建設されており、日本人購入者も多い。フィリピンの首都マニラではマカティと呼ばれるエリアがこれに相当する。バンコクのスクンビットにある好立地のマンション(築13年、床面積67平方メートル)は約6400万円と日本に近い水準だ。

両国の平均所得は先進国ほど高くないため、これまで自国民が買う物件と外国人が買う物件には大きな隔たりがあった。

各国と事情が違う中国の状況

だが、近年の目覚ましい経済成長によって、その差が縮まりつつあり、外国人が購入する物件の一部は、自国民のアッパーミドル層が買うようになっている。近い将来、多くの新興国でこうした二重価格解消の動きが進む可能性が高い。

各国と少々異なる動きをしているのが、不動産バブルが崩壊した中国である。中国は海外マネーではなく、自国のバブル的な投資熱によって不動産価格の高騰が続いていた。だが21年に不動産バブルが崩壊し、価格の下落が今も続いている。中国の不動産バブルは80年代の日本における不動産バブルとよく似ている。経常黒字と金融緩和が過剰流動性を生み出し、これが不動産に集中する形で価格が高騰。崩壊後の不良債権処理についても、日本と同様しばらく時間がかかるとの見方が多い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ポルシェ、ブルーメCEOの後任にマクラーレン元トッ

ワールド

イスラエルがガザ空爆、26人死亡 その後停戦再開と

ワールド

英EU離脱は貿易障壁の悪影響を世界に示す警告=英中

ワールド

香港国際空港で貨物機が海に滑落、地上の2人死亡報道
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「実は避けるべき」一品とは?
  • 4
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 7
    自重筋トレの王者「マッスルアップ」とは?...瞬発力…
  • 8
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 9
    「中国は危険」から「中国かっこいい」へ──ベトナム…
  • 10
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 9
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story