コラム

大混乱に陥った自民党総裁選...小林氏も小泉氏も「世代交代」「派閥解消」の象徴とは言えない理由

2024年08月28日(水)18時14分
岸田首相の不出馬で自民党総裁選が過熱

PHILIP FONGーPOOLーREUTERS

<自民党総裁選で若手の小林鷹之氏や小泉進次郎氏は世代交代をアピールしているが、その背景には派閥や長老たちの「計算」が見え隠れする>

岸田文雄首相が2024年9月に行われる自民党総裁選への不出馬を表明した。10人以上が出馬に意欲を示すなど、党内は半ば混乱状態に陥っている。

同じ派閥から複数名が名乗りを上げており、完全に派閥が解消したように思えるが、よく観察するとそうではない一面も見えてくる。今回の自民党総裁選は、表面的には派閥が消えゆくなか、新たな派閥形成という横の動きと、世代交代という縦の動きが交差していると考えてよい。

岸田氏は当初、総裁選に打って出る方針であり、勝利する可能性もそれなりにあったとされている。岸田政権の支持率は過去最低水準だが、永田町の論理とは不思議なもので、首相が国会議員から選出される以上、自民党内で総裁を倒せる相手がいなければ、政権を維持できてしまう側面がある。


だが、今回はあまりにも国民からの支持率が低く、仮に総裁選を乗り切ることができても、その後の総選挙で勝利する道のりは険しい。こうしたところに若手の小林鷹之前経済安全保障担当相が派閥横断的に出馬を画策したことで、状況が大きく変わってきた。

自らの派閥や影響力を維持しようとする長老たち

岸田氏としては、総選挙で敗北して引きずり降ろされたり、総裁選で世代交代を問う戦いになるシナリオは何としても避けたい。こうした事態を回避すべく、自ら先手を打って不出馬を表明したと考えられる。

実際、選挙戦が始まり、同じ派閥から複数名が出馬に意欲を示すなど、従来の枠組みとは異なる選挙にも見える。一方で、いわゆる長老と呼ばれる政治家が、自らの派閥や、それを通じた影響力を維持しようと試みている部分も見え隠れしており、フタを開けてみれば、派閥政治が継続するとの見方も根強い。

岸田氏が率いてきた宏池会は解散後も結束力が維持されており、所属議員の多くが林芳正官房長官を支持するとみられる。同じ派閥の上川陽子外相も出馬を検討しているものの、十分な支持者を集められなければ、最終的に林氏の支援に回る可能性もある。仮に林氏が総裁になった場合、岸田氏の影響力は今後も色濃く残るだろう。

麻生太郎副総裁は、これまで自派の河野太郎デジタル相の出馬に難色を示しており、ポスト岸田としては茂木派トップである茂木敏充幹事長を念頭に置いてきた。だが河野氏が出馬の意欲を強く示したことから、麻生氏は河野氏を支援せざるを得なくなり、茂木氏は自力での選挙戦を余儀なくされている。麻生氏が河野氏の出馬を容認したのは、やはり派内での影響力維持を優先した結果だろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米の株式併合件数、25年に過去最高を更新

ワールド

EU、重要鉱物の備蓄を計画 米中緊張巡り =FT

ワールド

ロシアの無人機がハルキウ攻撃、32人負傷 ウクライ

ビジネス

米テスラ、アリゾナ州で配車サービス事業許可を取得
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story