コラム

予想以上のGDP成長率、実は「数字のマジック」...まったく喜べない日本経済の本当の姿を解説

2023年09月06日(水)18時37分
日本の都会の風景

KOKOUU/ISTOCK

<予想を大きく上回った2023年4-6月期のGDP成長率だが、個人消費も設備投資も厳しい状況。数字を押し上げた要因とは?>

2023年4~6月期のGDP成長率はプラス1.5%、年率換算でプラス6%と予想を大きく上回った。コロナの収束で、いよいよ日本経済も成長が期待されると言いたいところだが、あまり喜べる状況ではない。今回、結果が良かったのは、GDPの計算手法に起因する、ある種の「数字のマジック」であり、内容はかなり厳しいものだった。

厳密な意味でGDPを計算するためには、日本における全ての商取引を全て足し上げる必要があるが、これは現実的な話ではない。各四半期のGDPは、企業の生産統計や家計調査を基に、消費や設備投資、輸出入などGDPにおける大まかな支出項目の増減を足し合わせることで算出している。

GDPの定義上、輸入が減ると数字が上昇するので、前期と比較して輸入が減少すれば、その分だけGDPが増える。輸入が減るのは、景気が悪いタイミングであることが多く、輸入が減ってGDPが増えるというのは直感的にピンとこないかもしれないが、計算上はそうなると理解してほしい。

4~6月期については、個人消費がマイナス0.5%となっており、前期よりも状況が悪くなった。個人消費と並んで成長のエンジンである企業の設備投資は0%と成長に寄与せず、プラス成長となった要因のほとんどは輸入の減少による数字のかさ上げだった。支出面の最大項目である消費が大幅に落ち込んでいたことを考えると、実体経済は厳しい状況にあると理解してよいだろう。

国内ではあらゆるモノの値段が上がっている

日本の輸入が大幅に減った理由は明らかで、円安による輸入品の大幅な価格上昇である。政府の補助によって何とか激しい高騰は抑制されているものの、ガソリン代や電気代などエネルギー価格の上昇が顕著となっているほか、パソコンやスマホなど輸入品は軒並み値上げされた。

食品の原材料の多くは輸入であり、製造過程や物流においてもエネルギーを消費するので、国内ではあらゆるモノの値段が上がっている。

つまり、あまりにも輸入品の価格が高いことから、購入を諦めるケースが増え、これが輸入を減らしたと考えられる。こうした環境下でも、業績が好調な一部の業界は原材料や部品を調達するため積極的に輸入を行っているが、これは全体からすると少数派でしかない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story