コラム

ジェネリック医薬品の「品不足」問題が、コロナの医療逼迫とつながる理由

2022年02月08日(火)19時20分
医薬品(イメージ)

CA-SSIS/ISTOCK

<ジェネリック品薄の直接的な原因はメーカーの不祥事だが、そうした事態に陥った背景にはコロナによる「医療逼迫」と同じ根本的原因がある>

ジェネリック医薬品(特許が切れた後の安価な後発薬)の不足が深刻な状況となっている。直接的な原因は国内製薬メーカーの不祥事で、コロナ危機が理由ではない。だが品不足の背景には日本の医療制度の限界という問題があり、コロナ危機における医療逼迫問題と根っこは同じである。

政府は医療費の高騰に伴う財政負担を軽減するため、安価なジェネリックの活用を推奨してきた。製薬は多額の先行投資を必要とするハイリスクなビジネスであり、先発薬メーカーにとっては利益率の低い特許切れ製品を継続するインセンティブは低い。

逆に後発薬メーカーはリスクが少ない分、相応の低価格で販売できる。患者や政府はジェネリックを使うことで医療費を抑制できるので、この仕組みをうまく活用すれば全員がメリットを享受できる。

だが、このところジェネリックを製造するメーカーの不祥事が多発し、供給が滞るという異例の事態となっている。品不足になっているのは3000品目に達すると言われ、抗リウマチ薬や抗アレルギー薬など、患者にとって欠かせない薬も手に入りにくい状態が続く。

ある薬が品不足になると、類似の製品を開発しているメーカーに注文が殺到し、今度は、注文を受けたメーカーが得意先への納入を優先するため、出荷を抑制するという悪循環に陥る。

不祥事だけではこれほど深刻にならない

品不足の直接的な原因は一部メーカーで品質不正が発生し、業務停止命令によって生産が滞ったことだが、一部メーカーの不祥事だけで、ここまで深刻な供給不足が発生するとは考えにくい。ジェネリック全体の供給体制が脆弱になっており、品質不正によってこの問題が一気に露呈した可能性について考慮すべきだろう。

ジェネリックの活用は、そもそも医療費を削減する目的で行われてきた。しかしながら製薬会社にとっては、利益が出る適正水準で販売できなければビジネスとして成立しない。政府は医療費削減のため薬価についても引き下げを繰り返しており、体力のない一部の後発薬メーカーは利益を上げづらくなっている。薬価の過度な引き下げによって業界全体が疲弊しており、これが品質不正や極端な品不足の温床になった可能性は高い。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州、長期的にはEVが主流に EUの移行計画後退で

ビジネス

競争力維持へコスト削減継続=独VW・CEO

ワールド

ドイツが300億ユーロの基金創設、競争力強化へ民間

ワールド

米当局、ブラウン大銃撃容疑者を特定 MIT教授殺害
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 2
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story