コラム

デフレと低金利が常識だった日本人に、「価値観の転換」が迫られる

2021年12月07日(火)19時39分
原油価格の高騰

TORU HANAI-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

<世界的な物価高騰は「コロナからの回復」という単純な要因によるものではない。日本経済が前提としてきた状況が一変する時代に備えよ>

原油を中心に多くの商品が値上がりしており、全世界的にインフレ懸念が高まっている。新型コロナウイルス危機からの景気回復期待が価格上昇の理由とされるが、背景には構造的な要因もあり、状況はそれほど単純ではない。

年初に1バレル=50ドル前後だった原油価格は一気に上昇し、一時、80ドルを突破した。アメリカが各国に備蓄放出を呼び掛けたことから60ドル台に下落したものの、長期的には上昇傾向が続くとみる専門家は多い。原油だけでなくあらゆる商品価格が高騰しており、アメリカにおける10月の消費者物価指数は前年同月比で6.2%もの上昇となった。

コロナ禍からの景気回復期待を背景とした需要増はあくまで短期的要因にすぎない。近年、東南アジアを中心に新興国の経済成長が顕著となっており、エネルギーのみならず食糧や各種資材など、あらゆる商品の需要が増大している。もともと需要過多で、物価が上がりやすい状況だったところに景気回復期待が加わった格好だ。

原油については別メカニズムも働いている。今後、全世界的に脱炭素化が進む見通しであることから、原油需要は減るとの見方が大半である。産油国にしてみれば、今後、需要が減少する資産に対して、追加投資を行って増産するインセンティブは働きにくい。

金融機関が二酸化炭素を大量排出するプロジェクトへの融資を手控えているため資金調達環境も悪化している。産油国としては需要があるうちに多くの利益を確保しておきたいため、なかなか増産に応じようとしない。

日本も無縁でいられない

アメリカと中国が政治的に対立していることも物価上昇に拍車を掛けている。これまで両国は貿易という形で相互に商品を融通していた。ところが、米中分断が進んだことによって両国企業はそれぞれ個別に商品を調達、あるいは第三国を経由した輸出入を行うようになった。バラバラの調達ではスケールメリットが失われるので、コストは上がらざるを得ない。

今回の物価上昇にはこうした構造的要因が密接に絡んでおり、多くの市場関係者がインフレの長期化を予想している。日本では今のところ顕著な物価上昇は観察されていないが、筆者は時間の問題だと考える。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

BofAのCEO、近い将来に退任せずと表明

ワールド

トランプ氏、反ファシスト運動「アンティファ」をテロ

ビジネス

家計の金融資産、6月末は2239兆円で最高更新 株

ワールド

アブダビ国営石油主導連合、豪サントスへの187億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story