コラム

日本の睡眠が危ない! 働き方改革はライフスタイルの見直しから

2017年07月18日(火)16時20分

YinYang-iStock.

<少ない睡眠時間と余裕のないライフスタイルは、経済全般にマイナスの影響を与える>

日本人の睡眠が少々、危険な領域に入ってきた。睡眠時間の短さは、労働生産性と密接に関係することが知られている。本当の意味で「働き方改革」を成功させるためには、単純に残業時間を減らすだけなく、日本人の価値観やライフスタイルそのものを変革する必要がある。

睡眠時間と生産性には密接な関係がある

厚生労働省の調査によると、1日の睡眠時間が6時間未満という人の割合は39.5%だった(2015年)。6時間未満という人の割合は2007年には28.4%だったので、睡眠を短時間で済ませる人が増えていることが分かる。適切な睡眠時間は人によって異なるが、「日中、眠気を感じた」という割合は6時間未満のグループが高いので、やはり十分な睡眠が取れていないと解釈するのが妥当だろう。
 
日本人の睡眠時間は国際的に見てどの程度なのだろうか。OECD(経済協力開発機構)の調査(2008年~2014年)によると日本人の平均睡眠時間は7.7時間となっており、これは先進各国と比較するとかなり短い。米国人は8.8時間、フランスは8.5時間、イタリアは8.3時間といずれも8時間台となっている。

睡眠時間の短さは、長時間労働や労働生産性と密接に関係すると言われるが、データもそれを裏付けている。

日本人の平均労働時間は7.2時間となっている。ハードワークで知られる米国は日本より長く7.5時間だが、ドイツは5.7時間、フランスは6.1時間とかなり短い。一方、日本の労働生産性は先進国の中では突出して低く38.6ドルしかない。米国(58.4ドル)、ドイツ(60.2ドル)などと比較すると3分の2である。

統計学的に厳密な計算ではないが、睡眠時間と労働生産性の相関係数を取ってみると0.8という、かなり高い数値が得られた。仕事を効率よく進めることは、良質な睡眠につながる可能性が高い。

労働時間に加えて通勤時間も長い日本人

時間の使い方で日本人に特徴的なのは、上記のように労働時間が長いことに加え、通勤時間が長く、家族や友人と過ごす時間が短いことである。一方、食事の時間は意外と長い。

例えば米国人は日本人と同じくらい長時間労働だが、労働によって生み出される付加価値は日本の1.5倍もある。基本的に付加価値の差は年収の差と思えばよいので、米国人はハードワークする代わりにたくさん稼ぐというライフスタイルであることが分かる。

食事に費やす時間は日本の半分しかないものの、家族とふれあう時間は日本人の2倍近くもある。トータルすると、仕事(稼ぎ)、家族、睡眠を優先するため、食事を犠牲にしているという図式だ。

欧州は米国とはかなり雰囲気が異なっている。フランス人やイタリア人の労働時間はかなり短く、食事の時間は長い。睡眠もたっぷり確保している。一方、欧州人は米国人ほど家族との時間は確保していない。プライベート優先で、仕事もそこそこに済ませ、ゆっくりと食事を楽しむという感覚のようだ。少々、乱暴な言い方かもしれないが、この統計は、ステレオタイプなフランス人のイメージとよく符合する。

日本の場合には長時間労働に加えて通勤時間が長く、これが自由に使える時間を圧迫している。一方、食事の時間は長く確保しており、その結果として、睡眠時間や家族との時間が短くなっているようだ(食事の時間の一部はもしかすると、会社の飲み会かもしれない)。

【参考記事】日本の睡眠不足がイノベーション社会への変革を阻害する
【参考記事】眠りの質向上が骨粗鬆症の予防に?

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調

ビジネス

米フォード、4月の米国販売は16%増 EVは急減

ワールド

米イラン核協議、3日予定の4回目会合延期 「米次第
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story