コラム

ヤマト値上げが裏目に? 運送会社化するアマゾン

2017年05月23日(火)11時34分

写真はイメージです。 jahcottontail143-iStock.

<ヤマトの値上げを飲むか否か。大口取引先アマゾンは、単なる小売りでなく運送会社としてライバルになるかもしれない>

人手不足への対応からヤマトや佐川など運送各社が値上げに踏み切る中、アマゾンが反撃を開始している。自社リソースを使った有料即時配達サービスを強化するとともに、生鮮食料品の配送サービスもスタートさせた。運送会社の値上げは、ネット通販のサービスの大きな転換点となる可能性が出てきた。
 

アマゾンが値上げを受け入れればヤマトは大幅増益だが...

ヤマト運輸は4月28日、宅配便の基本運賃を改定すると発表した。値上げ幅は5~20%程度で、例えば関東から関西に60サイズ(外形寸法の合計が60センチ以内)の荷物を送る場合、従来は800円の料金がかかっていたが、新料金体系では940円となる。消費者を対象とした値上げは27年ぶりのことである。

一方、アマゾンなどネット通販各社とは大口契約となっており、1個あたりどの程度の金額で配送を行っているのについては明らかにしていない。しかし各種資料などから筆者が推定したところでは、ヤマトはアマゾンから1個あたり400円以下というかなり安い金額で配送を請け負っていた可能性が高い。

仮にアマゾンに対して2割の値上げを行い、他の顧客については5%値上げした場合、アマゾンの取扱量が変わらないと仮定すると、ヤマトの営業利益は2倍に増えることになる。だがアマゾンに対して値上げを実施した場合、アマゾンはヤマトの取扱量を減らす可能性がある。アマゾンからの依頼が2割減少した場合には、ヤマトの増益は約1.5倍にとどまる計算になる。

アマゾンはヤマトに依頼していた即日配達を企業間配送のSBS即配や日本郵政にシフトする可能性が高いが、アマゾンの取扱量の半分以上を占めるといわれるヤマトへの委託分をすべて他社に切り替えることは難しいだろう。そうなってくると、アマゾンはサービス水準を大幅に低下させるか、独自の配送網を構築するのかの二者択一を迫られることになる。アマゾンのこれまでの姿勢を考えると、後者を選択する可能性が高いと筆者は考えている。

【参考記事】アマゾン、イギリスでドローン配送の試験飛行へ

アマゾンとヤマトがライバルに?

アマゾンはヤマトの値上げ問題と前後して、新しいサービスを次々に発表している。ひとつは有料会委員向けの即時配達サービス「プライムナウ」の拡充、もうひとつは、生鮮食料品の配送サービスである「アマゾンフレッシュ」である。

アマゾンは2015年から、有料会員(プライム会員)を対象に、専用アプリを通じて注文した商品を1時間以内または指定した2時間枠に配送する「プライムナウ」というサービスを行っている。1回あたりの注文が2500円以上で、890円の配送料がかかるが(2時間便は無料)、運送会社ではなくアマゾンの自社スタッフが直接商品を手渡してくれる。プライムナウをスタートさせるにあたり、アマゾンは東京都内に自前の配送拠点を整備した。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

GMメキシコ工場で生産を数週間停止、人気のピックア

ビジネス

米財政収支、6月は270億ドルの黒字 関税収入は過

ワールド

ロシア外相が北朝鮮訪問、13日に外相会談

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 6
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story