ニュース速報
ワールド

アングル:氷点下の店内で接客、電力網攻撃に苦しむウクライナの小規模店

2026年02月18日(水)13時57分

写真は予備のバッテリーを操作する美容室の従業員。2月6日、ウクライナの首都キーウ近郊イルピンで撮影。REUTERS/Alina Smutko

Max Hunder

[イル‌ピン(ウクライナ) 17日 ロイター] - ナタリヤ・ビロストツカさんは、ウ‌クライナ首都キーウ郊外の通勤圏の町イルピンで経営する開業3年目の美容サロンに情熱​の全てを注いできた。しかし店内の気温がほぼ氷点下近くまで下がった時点で、営業を停止せざるを得ないと悟った。

「最初のころスタッフたちは『大丈夫、温⁠まりますから』と言ってくれた。でもネイリ​ストの1人がビデオ通話で、寒さで指が曲がらない様子を見せてきた」と振り返る。

ウクライナは今期、4年前のロシアによる侵攻開始以来で最も寒く、暗い冬に直面し、ビロストツカさんのような小規模な店舗経営者の多くは事業を続けることが難しくなっている。

ロシアによる電力網への度重なる空爆により、気温が摂氏マイナス20度を下回る冬のさなかに、停電や断水、暖房停止が数日間にわたって発生。キーウでは、カフェやレストラ⁠ンなど多くの小規模店舗が、戦時下の厳しい経済環境の中で負担に耐えられず閉店した。営業を続けている店も、コストのかかる発電機に頼っており、通りに置かれた発電機が排ガスと騒音をまき散らす。

ビロストツカさんは、⁠今年は月々の電気​料金が約4倍の5万8000フリブナ(約1340ドル)に跳ね上がり、さらに発電機の燃料と整備に1万5000フリブナ(約350ドル)かかっていると嘆く。「利益も売り上げもない。どうやっても払えない」と打ち明けた。

客足が途絶えるだけなので、値上げという選択肢もない。

キーウ経済大学は先月、停電がウクライナ経済にとって最大の差し迫ったリスクだと指摘。混乱が長引けば損失は最大で国内総生産(GDP)の2-3%に達する可能性があると警告した。ただ、企業が迅速に適応すれば影響は小さくなるという。

ウクライナ中央銀行も先月、エネルギー危機を理由に、今年の成長率見通しを従来の2%から1.8%へと下方修正した。

<客は冬用コ⁠ート着用>

幼い子ども2人を抱えるビロストツカさんは、現在月最大4万フリブナ(約925ドル)の赤字を出している‌事業のローンを返済するため、パートタイムの事務職に就いた。ロシアの部隊が撤退した翌年の23年にイルピンでフランチャイズ方⁠式を使って最⁠初のネイルサロンを開業。昨年には隣町ブチャに2店目を開いた。しかしその6カ月後にロシアが電力インフラへの激しい攻撃を開始し、あちこちの街が1日数時間を除き闇に包まれるようになった。

イルピンの店舗は室温が摂氏2度まで下がり、電気ヒーターでは不十分だったため、状況が改善するまで閉店することを決断。2月初旬に営業を再開したが、そのタイミングで新たな寒波がやってきた。再開初日は、約6度の室温の中、顧客は厚手の冬用コートを着たままネイルや‌ヘアセットをしてもらい、従業員はやかんで湯を沸かして髪を洗った。

弁護士のユリヤ・ハルチェンコさん(28)は、フー​ド付きパーカ‌ーとダウンジャケットに身を包んでネイルを⁠してもらった。「ロシア人はまだ分かっていない。私たち​ウクライナ人にとっては、たとえロシアが作り出した厳しい状況に置かれたとしても、ロシアの一部になるよりはずっとマシだ、ということを」と強調する。

<資金繰りは悪化>

キーウのシンクタンク経済戦略センターのシニアエコノミスト、ナタリヤ・コレスニチェンコ氏によると、ウクライナ企業の多くはロシアの攻撃にさらされる冬を乗り切るため、既に代替電源を確保している。しかし電力は需要が供給を大きく上回っており、発電機を稼働させ続ける費用や電力料金の急騰で引き‌続き打撃を受けやすい。

ウクライナのエネルギー相は先週、電力は需要が供給能力を約33%上回っていると述べた。ただ、状況は寒波が最悪だった1月よりは改善しているという。

中小企業はウクライナの労働力の約半数を雇用しており、閉鎖​が相次げば失業率上昇や国外移住の拡大につながりかねない。著名なシ⁠ェフでレストランを経営するイェウヘン・クロポテンコ氏は先週、フェイスブックに「今後数カ月は厳しくなるだろう」と投稿し、人員削減の可能性に触れた。ウクライナ全国レストラン連盟による最近の調査では、回答者の60%がエネルギー危機は事業にとって重大な脅威だと答えた。​ウクライナは22年の戦争開始以降、数百万人が国を離れ、その多くは帰国しない可能性が高い。

ビロストツカさんは、多くのウクライナ人と同様に「常にストレス状態」にあると語る。事業を維持するための闘いに疲れ果て、ロシアのドローンが頭上を飛ぶたびに子どもたちの身を案じている。

「結局のところ全てが終わり、やっと息をつけるようになった際に、われわれの心の奥底には何が残されているのだろうか」と問いかけた。

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン大統領、自身の発言を「敵が誤解」=国営テレビ

ワールド

王外相、米中対話の重要性強調 イラン情勢巡り軍事行

ワールド

トランプ氏、女子学校攻撃は「イランの仕業」 証拠は

ワールド

レバノン死者300人近くに、イスラエルは「壊滅的な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力空母保有国へ
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ル…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    大江千里が語るコロナ後のニューヨーク、生と死がリ…
  • 7
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 8
    女性の顔にできた「ニキビ」が実は......医師が「皮…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中