コラム

ウクライナ停戦は世界のパラダイムシフトを引き起こすのか

2025年02月28日(金)19時00分

世界のメディアは右へ倣えで、「ロシアは勝った。ウクライナは早く諦めろ」ということになっているが、ロシアも実はあえいでいる。昨年8月に「あと1週間で取れる」と豪語していた小要衝ポクロウシクでさえ、まだ掌握できていない。脱走相次ぐウクライナ兵に比べてロシア兵はまだ多数いることになっているが、兵役年齢の青年たちは既に何十万人も国外に「脱走」してしまった。貧困家庭や少数民族の青年を高給で釣り、刑務所の囚人まで「服役」させるやり方はもう限界だ。

今すぐ結果が欲しいトランプ

ロシアは、国防に予算の多くをつぎ込んだわりには兵器の増産ははかどらず、労働力不足から賃金はうなぎ上りでインフレは10%近くにもなり、政策金利を21%まで上げ、企業の投資を窒息させている。原油価格高騰時代にため込んだ「国民福祉基金」を取り崩しては予算を捻出してきたが、この基金も今年後半には尽きる計算だ。外貨源の原油の価格は弱含み、兵器は輸出するどころではない。だからアメリカがもう少し耐えれば、ロシアは譲ってくるだろう。


しかしトランプは、「自分が就任したその日に戦争を止めてみせる」と豪語していただけに、今すぐ結果が欲しい。それは何を意味するのか。自由や人権などのイデオロギーをめぐる無用の対立はもうやめる。他国のレジーム・チェンジを仕掛けてきたネオコンの時代は終わり。互いに干渉するのはやめて自分ファーストでいこう、物事は取引と力で決めよう、ということだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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