コラム

去り行くトランプ時代が世界に示した「近代の終焉」

2020年11月11日(水)16時30分

いよいよ退陣? トランプが世界に残した教訓とは CARLOS BARRIA-REUTERS

<近代西欧を特徴づけた国民国家や自由・民主主義は絶滅危惧に瀕している。日本はアメリカ依存で「ちまちま飯を食う」時代から脱却せよ>

トランプ時代も、もう終わり? この4年をつくづくと見直すならば、それが示す裂け目の深さ、人間の業の暗さに誰しも身震いする。

それは、「近代」の民主主義の価値観、そしてもろもろの社会的装置がもう利かなくなっていることを示しているからだ。アル・カポネの時代から抜け出てきたようなトランプ米大統領が、メキシコや中国を敵に仕立てて反則攻撃。ポイントを挙げては困窮白人層の喝采を得る。

「自由・民主主義」など一顧だにせず、むき出しの力の勝負、ジャングルの掟の中世に世界を引き戻した。「産業革命で生まれた広汎な中産階級が投票権を得ることで皆が権利を享受しながら、まともな生活水準を享受する」という、近代西欧の自由・民主主義は居場所を失う。アメリカの産業が移転した先の中国も近代の価値観を背負うことはしない。

そしてトランプ時代は、アメリカが白人主導の社会から多民族国家に転化する分水嶺に位置してもいる。自由・民主主義と共に近代西欧を特徴付けた民族国家・国民国家は、その本場の欧州でも今や絶滅危惧の存在だ。

これからのアメリカは、国内の激しい対立を生む原因となった産業空洞化による格差の増大や多民族社会化に、正面から取り組まざるを得ない。共和党は金持ちの都合だけ、民主党は上から目線で人権と民主主義のお説教ばかりでは、もうアメリカも世界も立ち行かない。

日本の対米外交は丁々発止で

この状況下で、日本はどうするべきか。アメリカで民主党政権ができると、日本は苦労するのが常だ。民主党支持者には、生活することで精いっぱいで同盟国のことなど構わない人が多いからだ。

ただ今回の選挙でバイデン候補の勝利となれば、むしろ逆の構図になる。バイデンのほうが日本を含めて、同盟諸国を大事にする。とはいえ、日本はこれから、「思いやり予算」に関わる協定の更改交渉に入るし、アメリカとの自由貿易協定第2弾の問題も浮上するだろう。アメリカに一方的なリードを許すことなく、日本としても望ましい落としどころをあらかじめ考えて、丁々発止の交渉をしてもらいたい。

バイデンが勝てば、「近代」は少し延命される。しかし遅かれ早かれ、その終焉の時は来る。アメリカに代わって「近代」を背負うことのできる国はない。日本は自分で、自分の望ましい将来像、社会の在り方を思い定め、それを平和裏に実現していかなければならない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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