コラム

長期政権を担う気構えに欠ける「つなぎの菅政権」が継ぐべきビジョン

2020年10月01日(木)15時00分

安倍前政権の「番頭マインド」から脱却できない菅 CARL COURTーPOOLーREUTERS

<前政権の番頭マインドそのままに政権運営する菅首相の政策は未来を見据えた視点が欠けている>

菅内閣が慌ただしく誕生して約2週間。外国首脳との電話会談も始めたし、やるべきことを着々と進めている。これまで政権の番頭格だったのだから、できて当然だ。

しかし想定外の安倍中途退陣を受けての内閣だけに、どうしても「つなぎ」の印象が抜けない。漢字の読み方では定評のある麻生太郎副総理兼財務相などは再任の挨拶で、菅内閣を「カン内閣」と呼んで自ら苦笑する始末。「つなぎ」ではなく長期政権を担う気構えと政策を示さないと、じきに来る解散総選挙ではとても勝てまい。

20201006issue_cover200.jpg

菅首相は自身のブログで、コロナ克服、縦割り行政の打破、雇用と暮らし、地方の活性化、社会保障充実、外交と危機管理を、別の場で規制緩和を課題に挙げている。なかでも目玉は、縦割り打破と規制緩和などの行革と、デジタル化推進政策といったところ。地方銀行のリストラも日程に上った。

しかし、どうも燃えてこない。これでは問題を片付ける番頭マインドそのままで、大きなビジョンが見えない。それに、これらの課題設定には問題がある。例えば「縦割り行政打破」と言っても、その意味が分かるのは役人くらいのもので、一般の国民にとっては政治家も官僚も同じ穴のむじな。縦に割れてなどいない。

一方、玄人の目から見ると、デジタル庁の創設は政府の「縦」を1つ増やすだけになるだろう。規制緩和と言うが、日本経済を大きく活性化させるような規制緩和はまだ残っているのか?世論は当面、安倍前政権からの変化を求めていない。「何でもいいから自分たちの負担を増やすことなしに、生活と安全を守ってほしい」というのが国民の本音だ。

だが総選挙を戦うには「安倍2.0政権」では戦えまい。河井案里参議院議員の選挙資金使途など、安倍時代のすねの傷にけりをつけた上で、前政権から継ぐものと継がないものをはっきりさせないと駄目だ。

制度疲労が積もる律令制度

特に憲法改正と物価上昇率2%の目標をどうするのか、はっきりすべきだ。憲法改正は棚上げが適当だろうが(筆者自身はアメリカ占領時代に作られた憲法を自前のものに替えるのがスジだと思っているが)、「インフレ期待をかき立てて企業の投資を刺激する」アベノミクスはきっぱりと変えてほしい。インフレ期待よりも、ボーナスの積み増しなどで企業の過剰な内部留保を吐き出させて所得水準をかさ上げし、消費主導の成長を図るほうが分かりやすい。

外交は「対米関係が基軸」で結構なのだが、これから始まる「思いやり予算」に関する交渉では、金額の多寡に話を矮小化することなしに、日本側の要望もきちんと通し、日本自前の防衛力向上を目指す方向性を明確に示すべきだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平交渉が2日目に、ゼレンスキー氏と米特

ビジネス

中国万科、償還延期拒否で18日に再び債権者会合 猶

ワールド

タイ、2月8日に総選挙 選管が発表

ワールド

フィリピン、中国に抗議へ 南シナ海で漁師負傷
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story