コラム

安倍晋三の名を歴史に残すために必要なのは「遺産」ではない

2019年01月04日(金)07時00分
安倍晋三の名を歴史に残すために必要なのは「遺産」ではない

内奏と閣僚認証式で皇居を訪れる安倍首相(2018年10月2日) ISSEI KATO-REUTERS

<改元、選挙、増税という3つの節目を迎える2019年の日本。鈍感力で難局を乗り切る安倍政権は、憲法改正や平和条約締結といった「レガシー」形成よりも、「カビ取り」で日本に活力を取り戻してほしい>

※2019年1月1/8日号(2018年12月26日発売)は「ISSUES2019」特集。分断の時代に迫る経済危機の足音/2020年にトランプは再選されるのか/危うさを増す習近平と中国経済の綱渡り/金正恩は「第2の鄧小平」を目指す/新元号、消費税......日本は生まれ変わるか/フィンテックとAIの金融革命、ほか。米中対立で不安定化する世界、各国はこう動く。
(この記事は本誌「ISSUES2019」特集より)

世相を表す2018年の「今年の漢字」は「災」だった。それは世界中がそうで、米中は覇権争いのデスマッチに、EUは機能不全。ロシアは制裁を受けたまま1人ですねて、アフリカなどに私兵を送り出す始末だった。

なかでも最大の不安定要因はアメリカだ。これまで世界に市場、資金と技術を提供してきたが、その陰で失業などグローバル化の犠牲になってきた有権者をなだめるために、世界経済や政治の枠組みまで変えようとしている。

その中で日本は鈍感力とでもいうのか、世界で群を抜く安定感がある。野党が総崩れになっているのと、アベノミクスがたまたまうまくいって、経済状態が悪くないからだ。

そして2019年。今のところ日本は対米、対中関係の双方とも悪くない。これまで日米関係だけの片肺飛行を続けてきた安倍外交は、やっと米中双方のエンジンで飛行できるのだ。北朝鮮の核開発・平和条約締結の問題は膠着状態に陥り、ロシアとの北方領土問題では進展は難しいが、日本外交全体の環境は悪くない。

主要国が不安定化するなかで、2019年6月28~29日に大阪で開かれる予定の20カ国・地域(G20)首脳会議では、いがみ合う各国をなだめる仲介役を安倍晋三首相が演じて、歌舞伎で言えば大詰めで見えを切るような場面も考えられる。爽やかなせりふは、「自由貿易、民主主義、市場経済の維持」というわけだ。もっとも、最近めっきり意味を失ってきたG20のこと。ドタキャンが相次いで、自然消滅しても不思議でないが。

また最近、世界の上に剣のようにぶらさがっている危険は、米国株式市場の暴落で不良債権が急増し、2008年のような金融不況が起きることだ。その場合、輸出増で成長を実現してきた日本は2009年時のようにGDPを6%も減らす局面に見舞われる。金利を下げる余地はないので、国債を大増発して窮境を乗り切るしかない。

大敗すれば「後継」争い

こうした国際環境の下、日本は3つのイベントを節目とする。まずは5月1日の新天皇即位。次は7月の参院選、そして10月1日の消費税引き上げ。この3つは小手先の政治戦術を超えて、日本の大きな方向を定める意味を持っている。

「明治150年」だった2018 年の翌年に元号が変わるのはすこぶる意味がある。アメリカの退潮によって世界の枠組み全体が変わろうとする時期と一致しており、日本人の心の持ち方を考え直してみる好機だからだ。天皇は歴史上、日本の超国家主義の頭目格として担ぎ出されやすい存在だった。今回の交代を潮に、そのような過去の残滓と手を切って、近代社会、民主主義社会における天皇制を名実ともに定着させてほしいものだ。

【関連記事】2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』など  <筆者の過去記事一覧はこちら

ニュース速報

ワールド

中国の香港出先機関、米制裁を批判「こっけいでばかげ

ワールド

コロナ対策協議、合意なければ権限行使する=トランプ

ワールド

アングル:「銭湯文化」を救う日本の新世代、コロナ禍

ワールド

アングル:トランプ氏TikTok「分け前」要求、法

MAGAZINE

特集:人生を変えた55冊

2020-8・11号(8/ 4発売)

コロナ自粛の夏休みは読書で自分を高めるチャンス──世界と日本の著名人が教える「価値観を揺さぶられた本」

人気ランキング

  • 1

    コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

  • 2

    中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?

  • 3

    ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死

  • 4

    K-POPも韓流ドラマも実は世界で売れていない? 韓国…

  • 5

    奇妙な北朝鮮「戦勝記念日」写真 金正恩の名を刻み…

  • 6

    再開は早過ぎた?クルーズ船でクラスター発生、寄港…

  • 7

    【独占】押谷仁教授が語る、PCR検査の有用性とリスク…

  • 8

    中国に「無関心で甘い」でいられる時代は終わった

  • 9

    中国はファーウェイ5Gで通信傍受する、英米の歴史か…

  • 10

    アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階…

  • 1

    コロナ感染大国アメリカでマスクなしの密着パーティー、警察も手出しできず

  • 2

    中国からの「謎の種」、播いたら生えてきたのは......?

  • 3

    中国・長江流域、豪雨で氾濫警報 三峡ダムは警戒水位3.5m超える

  • 4

    「金正恩敗訴」で韓国の損害賠償攻勢が始まる?

  • 5

    中国から米国に「謎の種」が送りつけられている.....…

  • 6

    韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット …

  • 7

    宇宙観測史上、最も近くで撮影された「驚異の」太陽…

  • 8

    アメリカが遂に日本政界の媚中派を名指し批判──二階…

  • 9

    中国・三峡ダムに「ブラックスワン」が迫る──決壊は…

  • 10

    戦略性を失った習近平「四面楚歌」外交の末路

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!