コラム

経済制裁で強硬プーチンを改心させられるのか?

2018年07月11日(水)16時45分

こうして、アメリカの制裁はクリミア問題から離れて、「アメリカの内政に干渉したロシア」を制裁するものと化した。トランプはロシア寄りではないことを世論に示すため、制裁強化を止められないでいる。

そのため今年4月、米財務省は米企業に対して、世界的アルミニウム大手ルスアル社など38のロシア企業・個人との取引を禁じた。これで米銀行を使えなくなったルスアルはドル決済ができなくなり、世界中の企業との取引が停止。内外の自動車企業から抗議を受けた財務省はルスアルへの制裁を一時延ばしたほどだ。

つまり、アメリカの対ロ制裁は当初の目的から外れて、際限なく強化されていきかねない。ドル決済メカニズムからロシアを締め出すようなことがあれば、ロシア経済は致命的打撃を受けるだろう。

制裁は始めるのは割と簡単だが、撤廃するのが難しい。ロシアがクリミア併合を撤回しないうちに、欧米のほうから制裁措置を撤廃できない。足元の野党から、ロシアに屈したと批判されるからだ。

日本では欧米に抜け駆けして制裁を撤廃し、ロシアに恩を売ることを考える向きもいるそうだ。そんな卑屈なやり方よりも、国際社会で撤廃の音頭を取って一斉にやめるほうが、ロシアに感謝、そして尊敬されるだろう。

<本誌2018年7月3日号「特集:おそロシア」より転載>

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プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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