コラム

中国マネーを前に色あせる日本外交、プーチンも金正恩もなびかず

2018年07月07日(土)14時00分

日ロ首脳会談に臨む安倍首相(5月、サンクトペテルブルク) REUTERS

<中国からシベリアや北朝鮮に流入する膨大な投融資――大競争時代には旧来のODAから攻めの投資への転換が必要だ>

9月11~13日、ロシアのウラジオストクで毎年恒例の東方経済フォーラムが開かれる。ここで、すっかりおなじみになった日ロ首脳会談だけでなく、日朝首脳会談もあるかもしれない。

日本では、「日本がロシア極東開発に協力し、見返りに北方領土問題で色をつけてもらう」「日本が北朝鮮に数兆円の支援を約束して交渉の道筋をつける」など臆測も飛び交っている。しかし極東に経済大国が日本しかなかった頃と比べ、今は中国が台頭して様変わり。日本の中高年世代は、そこが頭に入っていない。

昨年の中ロ貿易は840億ドルに上ったが、日ロは198億ドルしかない。シベリアや極東への投資にしても、収益性が確かな投資案件が少ないこの地域では、活力に満ちた中国人の活躍ばかりが目立つ。この地域で耕地のリースを拡大し、しばしば現地のロシア人住民と摩擦を起こしているほどだ。

3月、中国の駐ロ大使は「中国の投資家が極東で予定している案件の総事業規模は300億ドル以上」と述べた。さらに6月には、中国の国家開発銀行がロシア対外経済銀行に6000億ルーブル(約1兆円)相当の融資をすることで合意している。

北朝鮮に対しても、中国のカネは素早さと規模で日本を上回り続けるだろう。北朝鮮の主要都市が予想よりはるかに豊かな様相を示しているのは、中国との経済・投資関係に支えられているから。日本がロシアや北朝鮮をカネでなびかせようとするのは、もう時代遅れだ。

戦後の日本外交の主な武器はカネで、他の先進国とODA供与額を争ってきた。しかし途上国の所得水準が向上し、経済発展の手段として外国直接投資の受け入れが主流になってくると、ODA融資は世界の関心を失ってきた感がある。

日本のODAを大いに評価してきた中央アジアでも、この頃は日本企業による直接投資のほうを要請してくる。融資と違って直接投資は返済しなくていいし、日本企業が途上国に欠けている経営ノウハウももたらしてくれるからだ。日本企業は収益性も分からないところに、貴重な資金や人材を張り付かせるわけにはいかないのだが。

それでもインフラ向け等、大型融資へのニーズはまだ高い。中国の長期低利融資や、アジアインフラ投資銀行(AIIB)がもてはやされるわけだ。AIIBは今年も約35億ドルの投融資を予定している。一方、日本の円借款は年間1兆円以上に及ぶものの、収益性などの事前審査が厳しく、検討は数年に及ぶ。その隙を中国の身軽な融資に突かれている。

日本製品の購入も条件に

中国を上回る融資能力を持っているのに評価されない現状に対し、腰を据えた見直しが必要だ。日本の支援はもうODAの形にこだわることもあるまい。「日本イニシアチブ」とでも銘打って、長期で低利、かつ大規模な融資の枠組みをつくればいい。

円借款よりも供与の事業分野を広げ、所得水準の向上した東南アジア諸国や、北方領土問題が解決した暁にはロシアにも提供したらいい。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使

ビジネス

伝統的に好調な11月入り、130社が決算発表へ=今
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story