コラム

安倍外交を空転させる、官僚仕込みの能天気「シナリオ」

2018年06月09日(土)13時00分

会談の合間に宇宙飛行士と交信する日ロ首脳(5月26日、モスクワ) Grigory Dukor-REUTERS

<安倍首相がロシア訪問を重ねてもプーチンを動かせない背景は霞が関にあり――調整あって外交なき「発言要領」などトランプも食わない>

5月24~27日、安倍晋三首相はロシアを訪問。サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムや首都モスクワでの「ロシアにおける日本年」開会式に出席、日ロ首脳会談など、例によって多彩な日程を精力的にこなした。

政権発足以来、既に5年半。外遊は延べ142カ国・地域に及ぶ。小泉政権後に混乱の時代となり、すっかり忘れられていた日本の顔を世界に思い出させたことは大きな功績だ。

一方、その精力的な外交をもってしても、日本の存在感は薄いまま。今回の訪ロにしても、米CNNや英BBCはおろか日本のテレビニュースでさえ4、5番目の扱いだ。「信頼関係を打ち立てた」と安倍首相が言うわりに、ロシアのプーチン大統領の表情には気が入っていなかった。ロシアのクリミア併合に対する制裁措置に日本も加わった14年以降、しこりが取れていないようだ。

対米外交についても、トランプ米大統領を早期に訪問して気軽に話せる関係を築いたのはよかったものの、4月の訪米では日本の貿易黒字に対するトランプの持論を変えることはできなかった。北朝鮮との関係では、日本人拉致問題の解決を米韓の首脳に頼んで回る体たらくだ。日本外交は空回りに陥っている。アプローチを変えるべきだ。

スジばかりでのみ込めない

戦後日本の外交には、2つの柱がある。1つは日本を破り、植民地を放棄させて丸裸にした戦勝国アメリカにしがみつき、安全と繁栄を確保してきたこと。もう1つは明治以後の伝統として、西欧が確立した「自由と民主主義」「国際法」という規範を守ることで欧米の一員にしてもらい、自国の利益と安全を守る、という柱だ。今の問題は両方が揺らぎつつあることだ。

これまでは、「対米関係がよければ他の国との関係もうまくいく」でよかった。ところが今のトランプに理屈や「同盟国だから」という言い方は通らない。トランプの口からは要求や「取引」ばかりが繰り返され、自由と民主主義という「価値観」は聞こえない。明治以降、日本が水戸黄門の「葵の印籠」のように奉じてきた「国際法」にしても、トランプは自国の強大さをいいことに、自分のルールを押し付けてくる。

それでもまだ、今は日米同盟体制の見直しを考えるときには至っていない。しかし、「対米関係がよければ他国との関係もうまくいく」時代はひとまず棚上げ。日本はもっと自力で、自分の安全と利益を図らなければならない。まず第一歩として、日本外交からお人よし、能天気といった要素を一掃することだ。脅したりすかしたりの神経戦、自分のメッセージを相手国に刷り込む巧妙な広報戦ができるようにするべきだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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