コラム

トランプのエルサレム認定 「次」に起こる危機とサウジの影

2018年01月10日(水)12時01分

イスラエルのネタニヤフ首相(1月7日) Abir Sultan-REUTERS

<12月にトランプがエルサレムをイスラエルの首都に認定したが、この決定が意味するところが明らかになってきた。2018年、パレスチナの新たな危機が始まる>

トランプ大統領が昨年12月にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、米国大使館のエルサレムへの移転を指示すると決定した。この決定が何を意味するかについては、少しずつではあるが明らかになってきている。

まず、トランプ大統領の決定の内容を確認しよう。

「歴代の大統領は20年以上にわたって、エルサレムの認知を遅らせることが平和につながると信じて、法律の実施を拒否してきた。しかし、イスラエルとパレスチナの間の恒久的な和平の実現につながっていない」と、トランプ大統領は述べた。

その上で、「イスラエルが自国の首都を決定することを含む権利を持つ主権国家であり、この事実を認めることは和平の実現にとって必要な条件である」とし、「それは現実を認めることでしかない」とした。

トランプ大統領は米国が担ってきた中東和平の仲介者の役割について、「この決定は、われわれが恒久的な和平合意を仲介する強い役割から離脱するということではない。われわれはイスラエルとパレスチナの間の偉大なる合意を求めている」と主張する。

さらに「米国は、エルサレムでのイスラエルの主権が及ぶ範囲や論争がある境界など、和平の最終地位に関することにはいかなる立場もとらない。それらの問題は当事者にゆだねられる」とする。

トランプ大統領の発表には2つのキーワードがある。1つは、エルサレムをイスラエルの首都と認めることは「現実を認めることに過ぎない」といった「現実」という言葉であり、もう1つは「恒久的な和平」である。つまり、米国はイスラエルが東エルサレムを含む「統一エルサレム」を首都としているという「現実」を認めた上で、「恒久的な和平」の合意を目指すということになる。

もう国連には縛られないという意思表示

イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領した東エルサレムを併合した上で、1980年に統一エルサレムを首都とする基本法を成立させた。トランプ大統領の決定は、この基本法を追認するというものだ。

ただし、国連安保理は80年に「武力による領土の獲得は容認できない」として、イスラエルの基本法について「法的効力はなく、無効」と決定した。トランプ大統領の決定は安保理決議が「無効」としていることを「現実」として認めるというものであり、安保理決議違反である。

この度のトランプ大統領の決定について、安保理には決定を「無効」とする決議案が提出され、米国の拒否権行使で廃案になったものの、15理事国中14カ国が賛成した。同様の決議案は国連総会にもかけられ、圧倒的多数で採択された。米国は国連の中で孤立し、多数の意思と対立することが明確になった。

しかし、トランプ大統領は初めから中東和平で国連と対立することを意図して、エルサレムの認定を行ったと考えるべきだろう。つまり、もう国連のルールには縛られないという意思表示である。

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。フリーランスとして中東を拠点に活動。1956年生まれ。元朝日新聞記者。大阪外国語大学アラビア語科卒。特派員としてカイロ、エルサレム、バグダッドに駐在。中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イラク零年』(朝日新聞)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)、共著『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない』(集英社新書)。最新刊は『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』
ツイッターは @kawakami_yasu

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ギャップ、8─10月は既存店売上高・利益が市場予

ビジネス

ビットコインの弱気派優勢に、年末の9万ドル割れ確率

ワールド

米下院委員長、中国への半導体違法輸出受け法案の緊急

ワールド

ボスニアと米国、ロシア産ガスに代わるパイプライン建
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story