コラム

検察と二つの民主主義

2020年05月25日(月)07時42分

同じ「巨悪を暴く」検察の姿も、韓国人と日本人にとって同じものではない(2016年11月、サムスン電子の家宅捜索に入った検察捜査官) Kim Hong-Ji-REUTERS

<一方は、政府による検察への介入を嫌う民主主義、他方は、検察をも民意にひれ伏せさせようとする民主主義。前者は自らが選挙で選んだ政府を信用せず、後者では民意がすべて。つまり両者は、まったく別物の国である>

韓国政治を研究していて時々思うのは、どうして日本人はこんなに韓国の事を気にするようになったのだろうか、という事だ。勿論、この問いについては、「韓国が日本の事を批判するからだ」という人も多いだろう。しかし、日本への激しい批判で知られた初代大統領、李承晩の名前を挙げるまでもなく、韓国の人々が、日本、中でもその植民地期における行為や認識について批判するのは、今に始まった事ではない。そしてそれは朴正熙や全斗煥といった、軍事政権期の大統領が支配した時代も同じだった。例えば、韓国の歴史教科書を国定にして民族主義色を強めたり、安重根義士記念館をはじめとする多くの民族主義的な記念館や、記念碑が建てられたりしたのは、時に「親日的」という修飾語が被せられる朴正熙の政権下での事である。

韓国は数ある外国の1つ

にも拘わらず、かつての日本人はそうした韓国の動きに敏感には反応しなかった。日本国内において韓国の民族主義的な動きが大きく報じられ、人々が殊更に反応するようになったのは、「嫌韓」という言葉が生まれた2000年代に入っての事である。そして、近年はこれに加えて新しい反応もみられる様になった。即ち、日本国内における民族主義的な人々が韓国の民族主義的な動きに敏感に反応するのに釣られる様に、これに対抗する「リベラル」──ここではとりあえず何が「リベラル」であるかは置いておこう──である事を自認する人たちもまた、韓国の動きにいちいち反応するようになったのである。

あくまで仕事として、或いは「研究対象」として、韓国に関心を持つ筆者からすれば、どうして彼らがかくも熱心に韓国について語りたがるのかは、正直、あまり理解できない。当然の事ながら、韓国は世界に数多くある国の一つに過ぎず、その社会には様々な特徴が存在する。しかしながら、日本国内における韓国に関わる議論は、いつも極端だ。「嫌韓」という言葉で表現されるような、民族主義的な人々の語る韓国の姿は、常に否定的なものであり、逆に「リベラル」を自認する人の多くは、韓国、とりわけ「進歩派」の文在寅が政権を握った後の韓国を好意的に語りたがる。「日本ももっと韓国の民主主義を見習うべきですね」。そういって筆者に語り掛けて来る人は、「韓国だけは許せないんです」という人の数と比例するかのように増加している。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、カーグ島再攻撃を示唆 イランとの取引「

ワールド

UAEフジャイラで石油積載一部停止、無人機攻撃受け

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ政権、イラン停戦交渉を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story