コラム

イギリスは北アイルランドに特に未練なし......日本人の知らない北アイルランドの真実

2024年02月27日(火)15時48分
北アイルランドの新首相ミシェル・オニールとエマ・リトルペンゲリー副首相とアイルランド共和国のレオ・バラッカ―首相

北アイルランドの新首相ミシェル・オニール(左)とエマ・リトルペンゲリー副首相(右)、アイルランド共和国のレオ・バラッカ―首相(中央)が顔合わせ(2月5日、ベルファスト)CARRIE DAVENPORTーREUTERS

<規模が小さいわりにトラブルだらけの場所だったイギリスの北アイルランドは、ここ数十年で大きく変化し、イギリス本土の意識も変わった>

僕は先日、北アイルランドについて記事を書いたのだが、どこまでが「必要な説明」でどこからが「細かすぎる話」なのか、判断するのに苦労した。

僕が説明しなければならないことの1つは、北アイルランドで今回誕生した新政権は、最新の選挙によって成立したわけではないという事実だ。直近で選挙が行われたのは2022年5月で、この時は「ユニオニスト」(アイルランド共和国との合併に反対しイギリス連邦との統一維持を支持する層)の主要政党であるプロテスタント系保守の「民主統一党(DUP)」が自治政府への参加をボイコットしたことで政権が成立せず、自治政府の機能が停止した。定義上は、「権力分担」を大原則にしている北アイルランド自治政府は、2つの勢力双方が参加しなければ成立しない。

この膠着状態は、ブレグジット後の協定が原因だった。事実上、政府停止期間中の統治業務は北アイルランドの官僚が担っていた。行政府には大規模で全般的な政策決定を行う権限がないから、彼らは通常の政府の代わりは十分には務まらない。だから政府は「漂流状態」だった。

政府は常に機能停止と隣り合わせ

長年にわたり、イギリスの、アイルランド共和国の、そして1998年の包括和平合意で大きな役割を果たしたアメリカの政治家たちによって、北アイルランドの状況に対して多くの政治的努力が注ぎ込まれてきた。和平合意は大きな突破口となったものの、残念ながら最終的な問題解決とはならず、その後は北アイルランド政治は独自に機能し、おおむね正常に運営された。だがこの状態は機能停止にも陥りやすい。北アイルランド自治政府は2002年から2007年にかけてもやっぱり機能停止し、この時にはイギリス政府がやむを得ず直轄統治した。

だからイギリス本土では、北アイルランドは人口200万人未満という小規模のわりにあまりにトラブルだらけの場所、という感覚がある。英本土の人々は、北アイルランドの2つの勢力が、英本土の介入の必要なしに、ただ仲良くやってくれればいいのに、という思いだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story