コラム

住宅問題のせいでイギリスの階級的分断が再び拡大する

2023年08月14日(月)20時00分

以前のコラムで「ブーメラン世代」について書いた。これは、18歳で大学進学のために実家を出て、卒業後の21歳から32歳かそこらになるまで賃貸暮らししながら働き、自分なりのライフスタイルを楽しんでいたのに、このままでは夢のマイホームのための資金など永遠に貯まらないことに気付いた人々だ。そこで彼らは10年ほどたってから実家に戻り、おそらくは心ばかりのわずかな「家賃」を親に支払って貯金に励む。

以前のような親子関係には戻れないだろうから、これはしばしば失敗に終わる。「子供」にとっては屈辱的だし窮屈に感じるし、親にとっては日常のペースが乱されるし、育て上げた大人のわが子に「たかられる」のも、イライラした様子のわが子を見なければならないのも、勘弁してほしいと思うだろう。

だからこういった状況は不運なことだが、それが結婚相手やパートナー選びに影響していると聞くと、とても奇妙な状況でもあることが分かる。

住宅事情のせいで不幸なパートナー関係に甘んじていると答える人は、10人に1人にも上ると、さまざまな調査で示されている。時には経済的に別々の家に住む余裕がないからという理由で、別れたパートナーと一緒に暮らし続けているというケースもある。僕はあるパーティーでこの奇妙な状況のカップルに遭遇した。彼らは僕の友人の住むアパートの上の階から「別々に」パーティーに来ていた。

ある調査では、住宅事情のせいで通常よりも早めに誰かと同居することを検討しているという人は4分の1に上った。もちろん、人々が無意識下でどの程度「家のある人」を求めているのか、あるいは経済的地位がどの程度重視されるようになってきたのか、を明らかにできる調査はない。

イギリスの「階級的分断」は1世代前より小さくなったし、将来的にはもっと小さくなるだろうと、僕たちは考えたがる。でも実際のところ、「異なる階級間の結婚」は減りつつある。生まれ育った生活水準を維持して子供にも自分と同じくらいの機会を与えるためには、自分よりずっと貧しい人と結婚する余裕などないから、というのがその理由かもしれない。その間にも、資産を持てる人と持たざる人の格差は広がり、社会的流動性に避けることのできない影響が表れている。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月31号(3月24日発売)は「BTS再始動」特集。7人の「完全体」で新章へ、世界が注目するカムバックの意味 ―光化門ライブ速報―

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、国民に省エネ要請 公用車の利用も縮小

ビジネス

午前のドルは158円後半へ小幅高、イラン情勢巡り歩

ワールド

中銀の金購入拡大へ、地政学リスクでヘッジ需要高まる

ワールド

イラン産原油、印にプレミアム提示 ブレントに6─8
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 3
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 6
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 7
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 8
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 9
    「買ったら高いじゃん?」アカデミー賞会場のゴミ箱…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story