コラム

深刻化する「ギャンブル依存症」問題に英政府さえ動いた

2018年05月24日(木)18時50分

マンチェスターの掛け屋に設置されたFOBTのゲーム機 Phil Noble-REUTERS

<規制強化を嫌い経済効果を重視したがるイギリス政府でさえも早急に取り組まざるを得なかったギャンブル依存の蔓延>

最近イギリスで、地方選挙が実施された。僕は2つのことに興味を引かれた――1つは国家としての問題、そしてもう1つは(僕の)地元に関係のあることだ。

1つ目は、イギリス北部の地方議会で唯一議席を保持していたイギリス国民党(BNP)の議員が出馬を断念して、選挙で選ばれた最後の1人の政治家をBNPが失ったことだ。BNPは過激主義政党で、国政における足場固めに失敗し、今や地方議会レベルからも一掃された。

国民投票でブレグジット(イギリスのEU離脱)という結果が出たこと自体、ある種の過激主義の表れだと受け止められることもあるが、イギリスの有権者の一般的な特徴は、穏健だ。この国では極右は常に拒絶されてきたし、フランスの極右政治家マリーヌ・ルペンのような人物が幅広い支持を得て選挙に勝つことはイギリスでは考えられない。BNPの全滅がその証拠だ。

2つ目、地元コルチェスター中心部の小さな選挙区にまつわることで僕が興味を抱いた出来事は、選挙戦の中で保守党の候補者が、町のホームレス問題にもっと取り組んでいきたいという主張を前面に打ち出していたことだ。僕は以前このブログで、地元のホームレスの存在が迷惑だからいなくなってほしい(追い出すのではなく、支援するという形で)と書いた

一般に保守党は「自助努力」を掲げる政党で、働かない人々に施しを与えるよりも、働く人々に(減税によって)見返りややる気を与えようという政党だから、その保守党の候補がこの問題を取り上げたということがとりわけ興味深かった。だがどうやらこの保守党の候補者は、ホームレスが町のあちこちに当たり前にいる光景を見たくない、という僕のような市民の声を何度か耳にしたに違いない。

ホームレスがそんなにいない時なら個人の責任だと片づけやすいが、そこらじゅうにホームレスが蔓延しているとなると、対処しなければならない社会的な問題だと「平均的な」市民も考えるようになる(ちなみにその保守党候補者は当選した)。

ついに「社会の病」にメスが入った

また別の問題になるが、政府は5月17日、「固定オッズ発売端末(FOBT)」と呼ばれるゲーム機の掛け金の上限を、100ポンドから2ポンドに引き下げると発表した。店舗に設置され、いつでも1ポンドから気軽に掛けられて依存性が高い、ギャンブルの「クラック・コカイン」と呼ばれる機械だ。

一般的に英政府は、過度な規制には難色を示すし、他人の権利を侵害しない限り個人の行動は自由であるべきだとみなしているだけに、政府がこんな動きに出るとは衝撃的だった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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