コラム

テロ後も変わらないロンドンの日常

2017年04月20日(木)10時40分

休日のハイドパークには大勢のロンドン市民が集う aprott-iStock.

<先月22日にロンドン中心部を襲ったイスラム過激派のテロ。しかしその後もロンドン市民は恐怖に屈することなく、イギリスの政治システムのもとで自由を謳歌している>

日曜にロンドンで目覚めると、それは時に訪れるような完璧な春の日だった。「今年最高気温」の日だったが不快なほど暑くはない。25度でカラッとしていて、長い冬の後ようやく訪れた春のなか、やさしい風と雲一つない空が続いていた。

僕が滞在していたベイズウォーターの友人の家から、僕がこれから行こうとしていたサマセットハウスまでは歩いて90分。バスに乗ることもできたが、こんな日には歩くのが純粋に楽しい。

そのうえ、新聞を見るとこの陽気は長続きしなそうだ。月曜には寒さが戻るようだが、この週末は楽しむにはうってつけ。だから、周りを見渡すと僕と同じ考えの人がたくさん外出しているようだった。

空を見上げると、このヨーロッパ最大の観光都市に降り立つ飛行機が横切っていた。

サマセットハウスまでの最短ルートは、ハイドパークを通る道だ。ここは25万人が混雑もなく入れるくらい大きな公園だけど、それでもところどころは見るからに混みあっていた。人々は暑い日には水場にたむろしたがるから、サーペンタイン・レイクやダイアナ妃記念噴水の周りはとても人が多かった。

【参考記事】英国警察はなぜ丸腰? ロンドンのテロ事件受けて変わるか?

女性たちはビキニ姿で日光浴。下着姿になっている男性たちもいた。カップルは手を取り合い、キスをする。絶好の天気では、人々も熱を上げやすくなるものだ。シードルやラガーやワインでピクニックをしている人たちが何グループもいた。その顔触れはあまりに多国籍でいろいろななまりが飛び交っているから、僕は生粋のロンドンっ子の割合はかなり低いんじゃないかと思った。

ハイドパーク・コーナーの横断歩道のところで、騎馬警官にでくわした。馬に乗った警官は直線道路「ザ・マル」を進み、ウェリントン・アーチまではどんどん先に行っていたのに、その後はザ・マルの半ばまでに僕が何度も何度も彼に追いついた。

馬の歩くスピードは人の2倍はあるはずだけど、警官は100メートルごとくらいに観光客から呼び止められ、写真を撮らせてと言われてはそのたびに馬を止めてポーズを取っていたからだ。人々はまるで初めて馬を見たとでもいうように馬をなで、笑顔になっていた。

僕は、バッキンガム宮殿からトラファルガー広場へと続く長くて広いこの「ザ・マル」を何度も歩いたことがある。でもこのときほど楽しんだことはなかったと思う。その日は歩行者天国になっていて、道の真ん中を歩くと両サイドの美しい風景が楽しめた。

右側には、遠くのビクトリア・タワー(ウェストミンスター宮殿の西端にある)のてっぺんに英国旗が見えた。左のまっすぐ先を見ると、建物の白さに目を奪われた(英王立協会とアドミラルティ・アーチだ)。僕が子供の頃は、ロンドンの大理石は排ガスと手入れ不足で薄汚れていたが、今では磨きあげられ、そのときは陽光に光り輝いていた。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコ中銀、1%利下げ インフレ警戒で緩和ペース減

ワールド

米、アルゼンチン産牛肉の輸入枠を4倍に拡大へ 畜産

ビジネス

米関税、英成長を圧迫 インフレも下押し=英中銀ディ

ビジネス

米9月中古住宅販売、1.5%増の406万戸 7カ月
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 2
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 3
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 4
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    「石炭の時代は終わった」南アジア4カ国で進む、知ら…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story