コラム

「ブレグジット後」の経済予想が外れまくった理由は?

2017年01月27日(金)17時45分

 もちろん彼らは、07年の金融危機を予測できなかったのと同じエコノミストたちだ。有名な話だが、08年に英エリザベス女王はロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの経済学者たちに、あの金融危機について誰もが聞きたかった質問をした。いわく、「ひどいこと。どうして誰も予測できなかったの?」

 エコノミストたちがまたしてもひどく予想を外した理由は、僕にはわからない。一つには、「集団思考」という説がある。つまり彼らは、全員同じような境遇で生まれ育ち、同じような学校を卒業し、同じ集団の中で動き、仲間の仮説を互いに強化し合っている、というものだ。だから、さまざまな専門分野に多様な立場のいろんな経済学者がいるように見えて、実は彼らの意見にたいした多様性はないのだ。

現役のしがらみと引退者の率直さ

 もうひとつの考え方はもっとシンプルで、エコノミストらはそうした結論を出すことで報酬を得ている、というものだ。

 彼らが文字通り「腐敗している」と言いたいわけではない。むしろ、こういうことだろう。人々は雇用主が評価してくれるような考えを信じがち。雇用主は、自分の先入観と自分の利益にとって最も都合のいい「独立」調査機関の結果を推奨しがちだ。

 ガーディアン紙のウェブサイトに投稿された、ブレグジットに関するある読者のコメントに、僕は興味を引かれた。現在重要な地位にいるエコノミストらは「ブレグジット後の衝撃」を予測していたが、多くの引退したエコノミストたちは、そこまで衝撃が訪れると予測しないばかりか、マイナス面だけでなくブレグジットのプラス面も予想していた、というものだった。

【参考記事】光熱費、電車賃、預金......ぼったくりイギリスの実態

 これをまさに体現した2人が、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁と、引退した前任者のマービン・キングだった。カーニーは政治的中立でなければいけない立場を翻して残留派の応援に回り、離脱派から非難された。一方のキングは、EUは組織として失敗しており、ブレグジットはリスクとともにチャンスをもたらすだろうと発言していた。

 6月の当時、僕は目を見張るほど率直な意見を目にした。ブレグジット国民投票の直前に、「消費者のための活動家」であるマーティン・ルイスが自分のウェブサイトに書いたものだ。冒頭近くのこの部分が、キーポイントだろう。

「理解しておくべき最も重要なことは、次に起きることについて、何一つ事実が存在しないということだ。EU離脱後に何が起こるか知っているという人は、誰であれ嘘つきだ。経済や移民、住宅価格の変化について正確な数字を予想するなどナンセンスだ。EU離脱は、前例がないもの。あらゆる研究、モデル、仮説はすべて、仮定に基づくものだ。それは当て推量であり、希望でしかない」

 僕は思う。今年の言葉にふさわしいのは、「post-expert(ポスト専門家)」では?

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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