コラム

前回に続いて為替操作に関して「監視リスト」入りを果たした日本

2016年10月17日(月)16時15分


 
 日本についての詳細の前にグローバル経済について。世界的な経済成長は1990年から2006年までの平均が3.6%だったところが2015年には3.2%、2016年は3.1%(IMF試算)、2017年も控えめになると見立てています。ちなみに、原油価格の低下による消費増は当初期待されていたよりも小幅であった、サプライズ要因となった英国のEU離脱によるネガティブな影響は今のところ muted(鳴りを潜めた状態) としています。低迷する世界経済の打開策として、特に低所得者層や家計の所得を引き上げることで包括的かつ持続的な成長を引き出す、内需に重きを置くマクロ経済政策を各国に推進するよう訴えています。

 日本に言及している部分では、「アベノミクス」を推し進めるため、当初2017年に予定されていた消費税増税の再度延期を5月に決定後、8月には安倍政権最大となるGDP6%に及ぶ緊急経済対策を発表したものの

although new spending will only account for roughly a quarter of the headline number.
(新規の財政出動は見出しの1/4程度に過ぎないだろう)

と事業規模は確かに28兆円越えだが、真水は7.5兆円に過ぎないと冷ややかな評価になっています。それを踏まえた上でということでしょう、最新のIMF試算に基づくものではありますが、先進国全体の成長が2016年1.6%から2017年には1.8%まで、米国の成長を1.6%から2.2%まで引き上げと予想をする中、日本は0.5%から0.6%(ユーロ圏は1.7%から1.5%)としています。

【参考記事】米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由

 金融政策については日銀が2016年1月に「マイナス金利」を採用、9月には従来のマネタリーベースの拡大から「イールドカーブ・コントロール(短期から長期まで利回り曲線全体を操作)」と「インフレ・オーバーシュート・コミットメント(インフレ率が2%を超えてもある程度の期間、現状の金融緩和政策を継続)」へ、政策の焦点を fundamentally shifted(根本的に転換した) と指摘。構造改革に関してはコーポレートガバナンスなど一部には進捗が見受けられるものの、remain essential(依然として不可欠) としているのはTPPの国会での承認の他、労働市場及びサービス部門での改革です。TPPについては現状保護されている農業部門や自動車部門等の改革を進める第一歩として重要としています。

 為替に関してより具体的に、今年に入ってから9月末までドルに対して円は18.7%上昇しましたが、その要因として、英国のEU離脱のようなリスクが顕在化する際には避難通貨として円が選好されやすいこと、米国の利上げペースが予想よりも緩慢で日米金利差が開かなかったことをあげています。加えて日銀による「マイナス金利」の実施により、2%のインフレ・ターゲット達成の手段を使い果たしたとの市場の思惑があったことにも言及していますが、円相場の動きは中期的なファンダメンタルズ(基礎的条件)に沿っているとして、特に円高が進んだことを問題視はしていません。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中閣僚貿易協議で「枠組み」到達とベセント氏、首脳

ワールド

トランプ氏がアジア歴訪開始、タイ・カンボジア和平調

ワールド

中国で「台湾光復」記念式典、共産党幹部が統一訴え

ビジネス

注目企業の決算やFOMCなど材料目白押し=今週の米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水の支配」の日本で起こっていること
  • 4
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 5
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 6
    1700年続く発酵の知恵...秋バテに効く「あの飲み物」…
  • 7
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下にな…
  • 8
    【テイラー・スウィフト】薄着なのに...黒タンクトッ…
  • 9
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 10
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story