コラム

グレタ・トゥーンベリを便利使いしたメディア・市民の罪

2022年12月10日(土)15時56分
グレタ・トゥーンベリ、気候変動

グレタさんの物語は美しいが(10月、自著の発表会)HENRY NICHOLLSーREUTERS

<環境活動家・グレタ氏への注目度が下がったのは、われわれ市民やメディアが彼女を「新世代の旗手」として都合の良く使っていたことの証だ>

11 月上旬からエジプトで開かれていた国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)が、先日閉幕した。気候変動で生じた被害を支援するため、途上国を対象にした新しい基金を創設すると決まったことが大きく報じられた。各国が協調して、国連の枠組みで被害への資金支援に取り組むのは初めてというのがニュースのポイントだ。

気候変動問題といえば、日本でもおなじみのスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏は「見せかけの温暖化対策」であると会議を批判し、参加を見送った。今やおなじみとなった彼女の「グリーンウォッシュ」論である。

トゥーンベリ氏が日本において最も注目を集めたのは、2019~20年にかけてのことだった。彼女は18年夏から地球温暖化の危機を訴え、たった一人で授業をボイコットする「学校ストライキ」に打って出た。学校に通うよりも地球の未来のほうが大切であるという主張は、確かに分かりやすい。

運動はやがて細々とではあったが日本にも広がり、新世代の旗手として彼女の言動は大いにスポットライトを浴びた。さらに共感を呼んだのは、スピーチのスタイルにもあった。彼女は「あなたたち」旧世代と、「私たち」新しい世代を分けて、温暖化を進めた旧世代は新世代の未来を奪っていると苛烈な口調で訴えた。

「あなたたち」と「私たち」を二分し、一方を敵とする手法にポピュリストの手口とも通底する危うさがあることは目に見えていた。だが、そんな懸念よりもメディア上で広がったのは「若い世代が訴えた」「日本の若者もグレタさんに続け」という「物語」だった。日本でも彼女の声に呼応した若者たちが出てきたことで、注目はさらに高まっていった。

彼女のようなスターの存在と、分かりやすい敵/味方の二項対立はSNSでは受け入れられやすい。若者たちが声を上げるという構図も日本のメディアでは好まれやすい。だが、持ち上げるだけ持ち上げて、都合が悪い主張をすると途端に無視する無責任な姿勢は肯定できない。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ

ビジネス

ECB、賃金やサービスインフレを注視=シュナーベル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story