コラム

記者から首相補佐官へ──「華麗なる転身」の落とし前をどうつけるのか

2020年11月12日(木)18時00分

HISAKO KAWASAKIーNEWSWEEK JAPAN

<メディア業界に衝撃を広げた元スター政治記者の首相補佐官への転身。その行動は以前、著書で書いたことと矛盾しないのか>

今回のダメ本

ISHIDO-kakizaki.jpg検証 安倍イズム──胎動する新国家主義
柿崎明二[著]
岩波新書
(2015年10月)

自著の評価を自ら落とす著者がいる。よくあるパターンは言行不一致で、あれだけ偉そうに書いていながら、実際の行動はこれかいなというものだ。最近で言えば、本書がそれに当てはまる。筆者の柿崎明二は毎日新聞に入社し、その後、共同通信記者に転じてそれなりの取材力と舌鋒鋭い政権批判でテレビなどでも活躍していたスター記者だ。その柿崎が、発足したばかりの菅義偉政権の首相補佐官に起用されるというニュースは永田町以上に、マスコミ業界でも衝撃を持って受け止められた。

簡単に言えば、「かくもあっさりと、権力側の世界に行くのか......」という驚きである。気骨ある政治記者は懐に飛び込んでも、権力に取り込まれることなく一線を画し、じっくり観察し、そしてタイミングを計り全てを書く。凡庸な記者は取り込まれ、時の政権の代弁者になるだけだが、彼はさらに上を行きあっさりと首相補佐官へと転じた。

柿崎は本書のように、安倍政権の手法を批判してきたリベラル派であり、リベラルからも人材を登用したと菅の手腕に言及する声も多い。だが、柿崎が本当にリベラルかといえば、全くそんなことはないだろう。自身の言葉に責任を持とうとするならば、リベラルだろうが保守だろうが、安倍政権を最も正統に継承した菅政権にあっさりと登用されることはないし、誘われたとしても当然、自ら断るのが筋だ。

本書に限らず彼の行動、過去の発言を読む限り、私には大手新聞社の政治部でたまにいるタイプの記者にしか見えない。つまり、政治家と同じ目線で大所高所から政局や国家観を語るのが好きな記者だ。菅とは同じ秋田県出身で、地方の悲哀を知る者同士、そして政局が好きな者同士でウマが合ったというのは大きな要素ではないか。彼がもっと語るべきは、彼自身の言葉と行動の整合性だ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story