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ウクライナでEUは「NATOの代わり」になれるのか? NATO第5条「のようなもの」の歴史と限界
それでもヨーロッパ人は、細々とでもここで「アメリカへの依存を減らして、あるいは全く頼らずに、ヨーロッパ人によるヨーロッパの防衛をどうするべきか」を考え続けてきた。
時は経ち、2009年になると、EUのリスボン条約による改正によって、「のようなもの」条項は「EU条約第42条7項」へと引き継がれ、西欧同盟は廃止された。二番目の「のようなもの」である。EU条約に入っているために、第42条のほうが前より法的効力は高まったのだが。
この歴史的文脈から考えると「のようなもの」を提供すると述べたスティーブ・ウィトコフ米特使の発言は、ウクライナへの安全の保証は政治的決断次第であり、運用能力や実践も別問題――という意味をはらんでいると感じさせる。
EUはNATOの代わりになれるのか
ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「我々にとってEU加盟は安全保障の一つ」と12月18日にブリュッセルで述べた。確かに、EUに加盟して第42条7項の保護下に入れるのなら、無いよりは良いだろう。
しかし彼は、ユーロニュースのインタビューで「将来のロシアの攻撃に備えた欧州の支援の約束は、米国によるウクライナへの安全保障を代替できない」とも述べた。
もし今、「EUはNATOの代わりになれるのだろうか」と問うならば、答えは「ノー」である。ウクライナが早ければ2027年1月にEU加盟すると草案に入っていると報道されたために、誤解がうまれているのではないだろうか。EU条約42条7項は、NATO第5条のように原則的に自動発動することもなければ、常時軍事計画による裏付けも欧州軍も存在しない。
何よりも、EUは平和のために構築された組織で、軍事の場になることには大きな抵抗があるし、加盟国の中には自国の軍隊の主権を失うことを恐れる意見も根強い。
ゼレンスキー大統領は「我々は、欧州が米国に取って代わるべきだとは考えていない」、「(欧州主導の多国籍軍は)ロシアが再び攻撃してきた場合、欧州がそのプレゼンスで戦えるという意味ではない。誰もそうは言っていない」と強調した。
欧州のどの国も、ロシア軍と自国の軍が戦火を交えるのを望んでいないことを彼は知っている。ましてやアメリカの盾なしに。支援はしてくれるが、自分の国は自国の軍隊で守るしかない。この悲痛な現実を知っていて、交渉に臨んでいるのだ。
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